吉行さんは、憤りを隠せない口調で続けました。

「留袖っていうんですか? 親や親族の女性が着る着物。ウチの母親は腰の手術をして以来、杖を使わないと歩けないんですよ。着物は着られないし、持っていない。その話をしたら、『困ったわねぇ。それじゃあ、世間体が悪いわ。今、留袖風のドレスがあるはずだから、それを着てもらいましょう』って、言うんです」

 まだ、吉行さんが返事もしないうちに、そこのホテルの衣装担当の人に、「新郎のお母様が着られるような留袖風のドレスはありますか?」って聞いたとか。

 さすがにムッとした吉行さんは、先走る絵美さんのお母さんに言いました。

「申し訳ないんですが、母は外出する時にはズボンしか履かないんです。スカートはまとわりついて転んでしまって危ないから」

 すると、絵美さんの母親がこう言ったそうです。

「ズボン? 正式な場所に女性がズボンを履くのはみっともないですよ。結婚式には、吉行さんの会社の上司の方もいらっしゃるんでしょう? 正式な場所では、正式なスタイルでお客様をお迎えしないと。世間様に笑われますよ」

 吉行さんは、私に言いました。

「彼女の家に結婚の挨拶に行った時から、お母さんの会話の中には、“世間”と言う言葉が本当によく出てきていました。世間って、いったい誰なんですか? 足の悪い母がズボンを履いていたのを見て、招待された客が笑いますか?」

 今、吉行さんはこのまま結婚を進めていいものかどうかを悩んでいます。

髪型から服装まで、クレームをつけられて

 もうひとつは、婚約を破棄してしまった真由さん(38歳、仮名)のケースです。

「振り出しに戻ったので、もう一度、婚活をします」

 そう連絡があった時は、本当に驚きました。1か月ほど前には、結婚するお相手の誠一さん(43歳、仮名)と、仲良く事務所を訪れてくれたというのに、いったい何があったのでしょうか?

 すでに結婚式の日取りも決まっていたはず。ひとまず面談をすることにしました。

「結納もして、結婚式の日にちも決めていたんでしょう。そこまで進んでいたのだから、やり直すことはできないの?」

 こう言う私に、真由さんは言いました。

「『結婚を取りやめにしよう』と言い出したのは、誠一さんの方なんです。『お互いに価値観があまりにも違いすぎて、結婚してもうまくやっていけるとは思えない』って、言うんですね」