相撲協会が暴力問題に対して真摯(しんし)に向き合っていることが分かる。また外部コンプライアンス委員は会合に出席するだけでなく、年間を通じて相撲部屋を訪問し、親方や力士の生の声も聞いてほしいと思う。
これで相撲協会の暴力問題への対応、よし、OK!……だろうか?
今はやり直しが難しい時代
鳴戸部屋の力士と親方への処分が報じられた2月初旬、SNSでは相撲ファンたちが「暴力禁止規定が決まったから、鳴戸親方がすぐに報告して協会が対応した。これはいいことだ」という趣旨のことを書いていた。
同時に、相撲界に近しい人たち何人かが、この暴力をふるった力士は入門前からかなり“ヤンチャな子”で、そのことを分かっていながら鳴戸親方が「うちで面倒をみましょう」と預かったと書いていた。
私はこの両方の意見を読んで、いじめられていた側の力士たちにとっては早く対応してもらえて本当に良かったし、親方と協会にも暴力根絶の姿勢が強く感じられて素晴らしいと思った。
しかし、引退した元々ヤンチャだった子はどこへいくのだろう? とも思った。そういう子の行き場が果たしてあるのだろうか?と。自己責任と言われたらそうかもしれない。弟弟子をいじめ、金銭まで要求したなんて言語道断だ。
でも、まだ20歳そこそこの子どもだ。キャリアがここで終わってはつらい。今はやり直しが難しい時代。もしかして昔なら、この子はまだ部屋にいられたんじゃないか? と思う私は甘いのだろうか?
しかし、昔から相撲部屋にはそういう問題を抱えた子が多く入門し、育ってきたと耳にする。学校で問題を起こして退学したり、家庭環境が複雑で家出を繰り返したような子たちが、後援会などのツテで相撲部屋に入門してくる、ということはよくあるという。相撲界は年齢や体格の基準に合えば、ズブの素人でも入門できる。
生活が荒れて気持ちも荒れ、大人を信じられなくてふてくされイキがり、ケンカっ早くて腕っぷしだけは強い。そういう子が相撲部屋で鍛えられて相撲も心も強くなった、ということも多いはずだ。
そういった場面では、かつて、親方から檄(げき)とともにげんこつが飛ぶことも、同じく腕っ節の強い兄弟子たちから相当に痛い平手打ちだって飛んでくることも、多かったという。昔は稽古場に竹刀があるのも当然だったそうだ。
元力士に話を聞くと、みんな口をそろえ「兄弟子たちは殴ったことに責任を持ってくれる、ありがたかった」と感謝を言う。
「いや、和田さん、そういう思い込ませが、身近な人の暴力の特徴ですよ」と言われるかもしれない。そうなんだろう。だからこそ、新しい規定では「稽古中に握りこぶしで殴る」など細かく禁止されている。