娘の浩子さんはしみじみとこう言う。
「父親としては身勝手な人ですよ(笑)。私なんて5回も転校しているから幼なじみの友達もいない。家族には迷惑な話で、しなくていい苦労もしてきました。ただ、一緒に仕事をするようになってから、障害者への接し方などを見ていると尊敬するしかない」
濱田に振り回されながら結局、職員も家族もボランティアと聞けば飛び出していく。誰もが濱田によってボランティアをする喜びを知ってしまったからだ。
濱田は自作の詩の中で、こんな言葉を紡いでいる。
《いい人になろう 金も力もないけれど なろうと思えばいつでもなれる
いい人になろう 困っている人がいるからね 待っている人がいるからね 助けが欲しいと言ってるからね》
濱田は暇があると、福祉作業所で障害者たちと話をしている。通常、福祉作業所では仕事が1種類しかないことが多いが、彼は「障害者だって仕事への向き不向きがある」として、パンやクッキーを作るだけではなく、ラーメン店のホールスタッフ、空き缶処理、敷地内に作った珈琲屋、雑貨売り場などさまざまな職場を作っている。
作業所の1室に障害のある人たちが集まっていた。「濱田さんがハンサムだと思う人」と問うと、「それはない!」と、みんなが笑いながら声をそろえた。
「代表(濱田)は物忘れが激しい」「返事が遅い」とダメ出しを食らって、濱田はさらにうれしそうに爆笑している。
作業所の裏の駐車場の隅に小さく仕切られたスペースがある。
「ここに小さな教会を作ります。私、牧師なんですよ」
なんと濱田はプロテスタントの洗礼を受けていたのである。「驚いた?」と、うれしそうに笑う。
「誰にでも居場所は多いほうがいい。教会もそのひとつになるかなと思って」
次々と新しい顔が覗く濱田龍郎、やはり「人たらし」である。
撮影/宮井正樹
取材・文/亀山早苗
かめやまさなえ 1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーライターとして活動。女の生き方をテーマに、恋愛、結婚、性の問題、貧困や格差社会など、幅広くノンフィクションを執筆。大のくまモンファンで、著書『くまモン力』(イースト・プレス)もある