3度目の大手術
翌、平成17年、今度は水頭症という脳の中に水がたまる病気を発症したのだ。3度目の大手術。今度ばかりは絶望感から、初めて“死にたい”と思ったという。
「“なんで私ばかりが!?”と。ホント、“なんで!? なんで!?”って。そう思いながら、笑ってごまかすの(笑)」
八っつぁん熊さんをはじめ、落語の登場人物たちはどんなに貧しく生活が悲惨でも、どこか明るい。おたまさんもまた、どんなに病に苦しめられても常に明るく、決して負けない。
そんなおたまさんを愛好会のメンバーたちもつかず離れずサポートする。
「“つらいときには何でも言って”って。行動も一緒だし、家族より頼れるかも(笑)。
いい人たちばかりでね、手術した先生から“脳の活性化のために何かやれ”と言われなかったら出会えなかった。ご縁があったんだね。ありがとう」
“ありがとう”は、おたまさんの口癖だ。
“朋代ちゃんをはじめ、ドクターや愛好会の仲間たちがいればこそ、今の自分は生きている”そんな思いからきているのかもしれない。
メンバーに励まされ、復帰を決意。鏡の前ですっかり動かなくなった顔の筋肉を動かすことからはじめ、徐々に声と表情を取り戻していった。
そして平成19(2007)年6月23日、九色亭おたま、3年ぶりに高座に復帰。
演じるは1階席だけでも280席を誇る『横浜にぎわい座』。復帰の舞台に上がれたことがうれしかった。
200名の観客と、ファンからの“おめでとう!”の声に後押しされて高座へ。闘病を支えてくれた人々への感謝を込めて、十八番の古典落語『紙入れ』を演じきった。
小どろさんが言う。
「あそこまで大変だった人がねえ。落語ができるまで復帰するとは、大復帰だったと思うよ!」
誠さんも、
「家族で見に行きました。兄の国人も一緒に。お客さんは笑っているんだけど、こちらはありがたかったけど笑いはしなかったですね、いろいろな感情がこみ上げてきて。安心したというか、ホッとしたというかね(笑)」
2度の脳腫瘍、そして水頭症という困難はあったものの、これから後はきっとうまくいく。
そんなのぞみとは裏腹に、またしても運命はおたまさんにさらなる試練を与えたのだった。