「世の中のママたち、きっとみんな、私と同じような思いをしているはずだと思いました。母親となる私にできることは何か、これを機にじっくりと考えてみようと思ったんです」
一念発起し、少人数保育の専門職である「チャイルドマインダー」の勉強を妊娠中に始め、資格を取得。「スノーボードをやりたい、でもできないママさんたちがいるはず」と、「育児とスノーボードの両立」をテーマに、徐々に自分がやりたいことが見えてきた。
「自分があせっていたように、社会で孤立感を抱えているママは多いと感じます。日本では、ママが息抜きできる場がとても少ないですよね。スノーボードが好きなのに、育児をきっかけにできなくなってしまった人、興味があるけどためらっている人たちに、そんな場を提供して、思いを共有したかったのです」
さまざまな準備を重ねて今年の1月に発足した『ハッピーサークル』は、入会金はもちろん、キャンセル料もない。全11回の活動日のうち好きなときに参加できる、都度払い制だ。当日になり「子どもが熱を出した」「急に都合が悪くなった」としても、キャンセル料がないからママにとってはありがたい。
午前10時から滑り始め、12時にランチタイム。スキー場内の託児所に預けていた子どもたちとわきあいあいと食事を楽しむ。その後は帰宅してもよいし、「まだ滑りたい」と思えば午後も滑ることができる。とても自由度の高いサークルだ。
「ママが参加しやすい時間や価格設定であること、個人のタイミングに寄り添うサークルであることを特に重視しました」という田中さん。当初は佐久近辺のママたちの参加を想定していたが、ふたを開けてみれば東京、埼玉、群馬、新潟など遠方からの参加者も。
今回で5回目の参加という佐藤芽衣さんも、新潟県上越市から約2時間かけて高速道路でやってきた。新潟といえば長野に負けないスキー王国だが「地元にはこんなママさんサークルはないんです」という。
「一緒に滑るママ友ができたらと思って、参加しました。1歳半の子どもを初めてスキー場の託児所に預けたときは泣いてしまって心配しましたが、今では子どももすっかり慣れて、親子でお互いに楽しめているなと感じます」
「子どもに怒ることが少なくなった」喜びの声
県内の信濃町に住む寺島理恵さんは初参加。もともとスノーボードが大好きだったが、「今日は約10年ぶりのゲレンデです!」とのこと。
「長女はもう9歳で、夫とスキーに出かけられるようになりました。でもわたしはいつも3歳の次女と留守番。今日は思い切って次女を託児所に預け、長女は外で夫と滑っています」
ほかにも、「長野県に引っ越してきたばかりで、ママ友がほしかった」という方や、「インスタグラムでサークルのことを知り、ふたりの子どもを夫に預けて埼玉県川越市から高速道路で来た」という初参加の方も。
田中さんは「活動の場も吟味した」と言う。
「ここは人工雪のスキー場で、真冬でも雪が積もることが少ない場所。しかもインターチェンジ直結で、子どもを連れたママでも安心して車で来られます。スキー場内の託児所も、生後半年から預かってくれるところはなかなかありません。この場所だからこそ、できたサークルです」
いちばんうれしかったのは、参加者からの「サークルに参加するようになって、子どもを怒ることが少なくなった」「夫に優しくできるようになった」という言葉だという。
「母親って本当に大変な仕事。大切な子どもの命と、朝から晩まで向き合っています。毎日がんばっているママが、週1回でも、思い切り自分の趣味を楽しんで息抜きできる場があるだけで、日々の生活は随分と変わると思います。ママが幸せなら、家族は幸せ。私自身も、このサークルで育児の悩みをみなさんと共有でき、心が軽くなったと感じています」
サークル発足当初は、なんと「参加人数1人だった日もありました!」というのが信じられないほど、最終日のこの日は大盛況。全11回の活動が無事に終了し、田中さんは「来シーズンもぜひやりたいです!」と意欲を見せた。