もちろん、元気で命があるうちは仕事も続け、進めたい取り組みもあると意気込む。
「さまざまな理由でつまずいてハンデを背負っている人たちのやり直しを支援したい。ときどき更生保護施設を回ったりしています。孤独だと厳しいけど、帰る場所があれば人は立ち直れるものだから。また虐待や貧困などの事情による教育格差を少なくする活動もしたいと思っています。まだ何ができるかわからないけれど」
最近「熟柿が落ちる」という言葉が心に響くそうだ。柿がおいしく熟すと落ちるように、人もじっくり考えて時機を待つという喩えだ。
「でも熟考するにも制限時間があるから、言い訳ばかりしていれば、やりたいこともできないまま年をとって終わってしまうのよ」
制限時間内に必死で考え、行ったり来たりしながら、ひとつひとつ選択してきたのが自分なのだという。
「生きているといいこともあるけど、とんでもないことも起こるでしょ。すごく幸せなことはいいことだけど、幸せというのは人を弱くする面もあるから。つらいときのことが人間をつくっていく気がしているの。
私も夫とうまくやれていたら、ひとりで東京に出てこなかっただろうし、人生まったく違うものになっていた。そういうことがあるたびに私って強くなるのよね。面の皮千枚張りくらいになっちゃう(笑)」
“どんな大変なことに直面してもノーとは言わず、イエスで受ける!”そう決めてやってきた。
「自分で出した答えが間違えていたら、そのときはまた引き受けるしかないわけで。それが生きられる道なのかなと思っています」
言うべきことを言う貴重な大人、吉永さん。つむぎ出すその言葉に多くの人がヒントをもらい、力づけられる。根底にあるのは徹底的に人を気にする心と社会を善くしたい思い。吉永さんがレース終盤の「第4コーナー」をどう駆け抜けるのか、その走りに注目したい。
撮影/伊藤和幸
取材・文/森きわこ(もり・きわこ)ライター。東京都出身。人物取材、ドキュメンタリーを中心に各種メディアで執筆。13年間の専業主婦生活の後、コンサルティング会社などで働く。社会人2人の母。好きな言葉は、「やり直しのきく人生」。