園芸が趣味。自宅でも農作物や花を育て、その知識を接客にいかしている
園芸が趣味。自宅でも農作物や花を育て、その知識を接客にいかしている
【写真】パッと明るい笑顔で仕事に精を出す土屋さん、池野さんら

「奥さん、よう元気で働いとるに~」

「働けるうちは働かにゃならん思てな」

 長野県高森町のホームセンターカインズ高森店で、商品の花の水やりをしながら訪れた常連客と話すのは、池野末子さん。車で5分ほどの自宅から週5日通っており、1日4時間、園芸コーナーで、花の管理や接客にいそしむ。

80歳越えで現役! 趣味を仕事に生き生きと

「もともと花が好きだし、職場の人たちにも恵まれている。仕事がつらいと思ったことは1度もない」

 そう語ってくれた池野さんの表情は若く、イキイキとしている。記者が取材で訪れたときには、別の従業員から商品に関する質問を受けており、周りから頼られていた。

 結婚前は保育士をしていた池野さん。結婚して高森町に移り住んでからは2人の娘に恵まれたが、子どもたちが小学生のとき、夫が脳梗塞で倒れてしまう。その後は看病をしながら、夫が営んでいた建築業を手伝い、従業員の面倒も見つつ子どもたちを育て上げた。

 それからは「高齢の母親の様子を定期的に見たい」と実家近くのゴルフ場で庶務を担当していたが、61歳で退職。母親が亡くなった後、「夫の介護をしながら勤務できる仕事を」と探していたところ、自宅近くに同店が開業し、オープニングスタッフ募集の文字を発見。次の勤務先に選んだ。それから19年間、働いている。

 給料は時給制。月収は6万~8万円程度で、年金受給額と合わせると14万~16万円程度になる。7年前に夫が他界してからは、娘夫婦との3人暮らし。収入は日々の食費などの生活費のほか、貯金にあてているという。

「孫が顔を見せに来たらお小遣いをあげにゃならんら? まだ元気だけどいつ働けなくなるかわからないし、娘に迷惑かけるわけにもいかんに」

 広い園芸コーナーを行き来する池野さんの様子は若い従業員と変わらない。だが、仕入れた花の積み下ろしや重い鉢の移動、頻繁な水やりなどの重労働は負担では?

「長いこと主人の介護で車イスに乗せるのもお風呂に入れるのも全部ひとりでやった。それに比べりゃ、いまの仕事なんて何の苦でもない」

 長いこと、働きながら、親や夫の介護もこなしてきた池野さんは、好きな花に囲まれ自由な暮らしを満喫できている今の生活が「本っ当に幸せ」と目を細めながら語る。

 同店で働くラインマネージャーの林史恭さんは、

「もちろん、石を動かすなどの力仕事は男性スタッフが行いますが、池野さんはちょっとした鉢植えの移動などは軽々とこなす。とはいえ、できないときは頼ってくれるので、周りも特別に気を遣うことなく働けます」

 と、職場の雰囲気のよさを教えてくれた。

 カインズは2018年に、パート・アルバイトの契約をすべて無期雇用に転換し、65歳の定年以降も1年ごとの更新で長く働ける制度を導入。意欲と能力次第では、池野さんのように80歳を過ぎても働けるようになった。いまでは全従業員のうち、約1割を60歳以上が占めるという。

「DIYや日用品、園芸用品など扱う商品が多く、経験と商品知識のあるシニア社員は貴重な戦力」

「池野さんは店舗経験が長いので、いると安心」(林さん)と信頼を寄せる
「池野さんは店舗経験が長いので、いると安心」(林さん)と信頼を寄せる

 と語るのは、経営企画部広報室の齋藤小百合さん。生活の知恵を持つシニアが売り場にいることで、親身な接客が可能になり、競合店との差別化が図れるという。また、人生経験の豊富なシニアはコミュニケーションスキルに長けていることも多く、職場の雰囲気もよくなるそう。

 同社では今年度中にスタッフにスマホを配布し商品を簡単に調べられるシステムを導入する予定。探し歩く負担を減らすことで、より接客に時間をあてられるようになる。

「従業員の8割がパート・アルバイトで彼らから業務を教えてもらうことが日常。役職に関係なくスタッフ間の連携がとれていることが強みです」

 社名の由来でもある「カインドネス」の精神が、シニアが長く働きやすい環境をつくっている。