人手不足から働くシニアの活躍に注目が集まる一方で、安く買い叩かれ、使い捨てられるケースも珍しくない。実態をよく知る社会運動家・藤田孝典氏が緊急報告!
使いつぶされるシニア女性と広がる貧困
女性の貧困といった際に「若い女性」の貧困をイメージする人が多いだろう。事実として、メディアで報じられる女性の貧困の多くはそうした事例であり、「シニア女性の貧困」はその陰に隠れてしまっている。しかし生活困窮者支援の現場に携わっていると、シニア女性の貧困は深刻な状況にあることがわかる。
そして、彼女たちの貧困問題は労働問題と切り離せない関係にある。なぜなら、貧困であるがゆえに、高齢になっても生活のために働かざるをえない状況にあるからだ。今回は、働くシニア女性の実態と、その背景にある貧困問題について考えていきたい。
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働かざるをえないシニア女性の労働実態はどのようなものだろうか。筆者も支援している労働組合『労災ユニオン』に寄せられる相談事例からは、安く都合のいい労働力として使い捨てられる高齢者、そんな実態が見えてくる。
69歳の女性・Aさんは「少しでも年金の足しに」するために、契約社員としてビルメンテナンス会社で清掃業務に携わっていた。80歳になる夫は、定年後、心臓と足を悪くしており、その介護をしながら毎朝早くから働いていた。時給1000円で週5日、午前8時半〜午後2時半までの勤務だった。
しかしAさんは勤務中に階段から足を踏みはずして転落し、首を骨折してしまう。さらに、下の歯を複数失うなどの大ケガを負い、救急搬送され入院することになってしまった。
本来、業務中のケガは労働災害保険が適用され、治療費や働けない期間の所得補償が支払われる。ところが、Aさんが労災申請の手続きをしようとすると会社側はそれを妨害してきたそうだ。
再三、書類を送るよう伝えても3か月間、放置されたあげく、電話で社長から家族へ威圧的で怒鳴り口調の対応がされた。また、入院中のAさんに対して「会社を辞めてほしい」と電話1本で告げてきたという。
彼女が働く職場は高齢者ばかりで、人手不足が常態化していた。それでも施設の職員らとの人間関係を良好に保ちながら、求められている以上の成果をあげ、会社に貢献してきたという自負がAさんにはある。それにもかかわらず、ケガをした途端に切り捨てられてしまった。
Aさんは、そのときの心情についてこう語る。
「まるでそれは“姥捨て山”に捨てられたような、とてもつらく、とても情けなく、屈辱的な、それまで生きてきた人生を否定されたような思いで、ただただ涙が止まりませんでした」
Aさんだけではない。マンションの清掃を行っていたBさん(62=女性)も、ケガをした途端に辞めるよう迫られた。
Bさんがマンション内の駐車場の排水溝を清掃していたところ、マンションの住人の車と接触事故を起こしてしまい、骨折。そのまま入院した。1か月ほどで退院したが、療養のため2か月は仕事ができない状況にあった。
保険の手続きのために保険会社の担当者が会社へ連絡を入れたところ、退職手続きを進めていたことが判明。そのことをBさんは知らされていなかった。
その件についてBさん本人が問い合わせたところ、会社から「今月いっぱいで退職してくれ」と言われ、契約途中での「雇い止め」を宣告されてしまった。
Bさんは、せめて療養が必要な2か月は休んで労災保険による補償を受けることを希望しているが、ケガをした途端に切り捨てるような会社の対応を目の当たりにして、「迷惑がかかるから辞めたほうがいいのかな」と漏らす。