母の的外れな言動も、どこかユーモラス
――いざ介護が必要になったときに、慌てないためには、どのような心構え・準備をしておいたらよいのでしょうか。
久々に実家に帰ったときなど、親を見て、「あ、老けたな」と感じることがありますよね。そんなときは、まだ親が元気でも、「将来、親のトイレを介助するなんてできるかしら?」と想像しては、「ムリムリ!」って不安に思っていました。
でも、先に先に考えすぎると、ムダに不安が大きくなってしまう気がします。それに、覚悟していたつもりでも、いざとなると家族はパニックになるんですよ。そして結局、やるしかない。「誰がやるの?」「え? 私?」「そうよね、私よね」って(笑) 目の前のことから、なんとかクリアしていくしかないんです。
『ことことこーこ』を書くにあたっては、「ユマニチュード」というフランスの介護法を勉強してみました。『ガッテン!』(NHK)でも紹介していましたね。相手と目線の高さを合わせて、近い距離で話すとよいとか。
実際に母の目をのぞきこんで、「おはよ」と言ってみたら、母も「おはよ」と、まねをして私の顔をのぞきこむから、にらめっこになっちゃって(笑)。ちょっと、子どもみたいになるの。
いつぞやも母がオクラの名前を思い出せなくて、「なんでも忘れちゃうねぇ」と言ったら、「覚えてることもあるもん!」と。「何を覚えてるの?」と意地悪したら、「うーん、何を覚えてるか忘れた!」って(笑)。
それから、入院中の父を、母と見舞ったときに、父が母に「おまえの作ったちらし寿司が食いたい」と言いだしたことがあるんです。そうしたら母ったら「ああ、ちらし寿司。駅前のスーパーに売っていますよ」って。(笑) あの阿川家の絶対的権力者だった父に対する、見事な仕返しぶりに大笑いしました。
こんな母の的外れな言動も、見方を変えると、ユーモアがあるんですよね。「ちょっと聞いてよ」と友人に話すとみな笑うし。「そうか、笑い話なんだ」と思うと気が楽になります。
たまに“ズル”をしたほうが優しくなれる
――介護と仕事のやりくりや、認知症の症状への対応に悩んでいる方も多いかと思います。心が折れずに介護を続ける秘訣はありますか。
介護は子育てと違って、未来は衰えが進むばかり。認知症の治療も進行予防でしかありません。日々、理不尽なことも起こります。うちではないけれど、いちばん尽くしに尽くした嫁が嫌われて、たまにしか帰ってこない娘にあれこれ言われるとかね。仕事との時間のやりくりもたいへんです。
でも以前、私が友人からの食事の誘いを介護を理由に断ったら、「介護は長丁場。吐いたほうが楽になるわよ!」と言われました。ふつうの主婦は実の親、舅(しゅうと)、姑(しゅうとめ)と次々とくるから、心身がもたないって。私も切羽詰まると「キーッ」って怒りっぽくなりますからね。(笑)
なので、母の頼みを「仕事だから」と断って、ゴルフに出かけたりもします。そんなふうに、たまに“ズル”しても息抜きの時間を作ることは大事ですね。そして、少々うしろめたい気持ちになるくらいのほうが、母に優しくなれるんです。