バンドマンの彼はバーの常連客のようで、中に入るとマスターから「あれ! 今日も女の子連れ? イイねえ〜モテる男は!」と声をかけてきた。
──なるほど、バンドマンよ、おとなしそうなのは見た目だけなのね。
“レディキラーカクテル”を使って
確実に酔わせにくる
古着屋で働きながらバンドをしているという27歳。“歩く下北沢”とは彼のことだろう。
「おすすめのお酒があるんだよね! よければ一杯おごらせてよ」
そういって2人分を注文し、出てきたのは「ロングアイランドアイスティー」というカクテルだった。ひと口飲んでみると非常に飲みやすく、甘い紅茶のような味がする。しかし、実際には紅茶を使っておらず、ウオツカやテキーラなどアルコール度数の高いスピリッツを数種類ブレンドし、紅茶のような味にしている。そのため、かなりアルコール度数が高く、巷(ちまた)で“レディキラーカクテル”なんて呼ばれることもある。
そんなこととはつゆ知らず、あまりの飲みやすさに続けて三杯も飲んでしまい、予想以上に酔いが回りはじめた。そんな私のペースに合わせてか、彼も着々とグラスを空けていく。
「え〜、シオリちゃんってめっちゃカワイイよねぇ。食べちゃいたい〜♪」
お酒が入ると、恐ろしく距離が近くなる。さっきまでおとなしそうな雰囲気だったのに、急にスイッチが入ったのかベタベタしてくる“歩く下北沢”。筆者も酔いのせいか、可愛らしく見えてキュンとしてしまった。
あちらのペースに乗せられる前に、なんとか気をしっかり保って会話をしなければと思い、恋人の有無を聞くと、
「恋人? う〜ん、いたっけなぁ〜」
と曖昧(あいまい)な返事。するとバーのマスターから
「こらこらキミ! 彼女いるでしょ!」
と口を挟んできた。
……彼女いるんか〜い!!