オーダーが入り、尾花がフランス語で部下に指示を出すシーンは「緊張感がリアル」と話題に。実際のシェフの世界でも、会話はすべてフランス語だ。
「私のいた店も、オーダーコールや伝票、料理の指示などはすべてフランス語でした。野菜や肉の切り方がたくさんあって、それぞれにフランス語の専門用語が割り当てられていますから、そのほうが効率がいいんです」(花本さん)
近年はフランスで日本人シェフが大活躍しているが、そこに至るまでには長い道のりがある。
「見習いが終わると、通常は前菜やパティシエを担当させてもらえるのですが、それはすべてに共通する“正確さ”や基礎的な工程を学ぶことができるからです。前菜やデザートは特に、具材や調味料の分量が絶対になってきますし、時間に余裕をもって作ることができる分野なんです」(前出・フレンチレストランに勤務するシェフ)
器用さと努力、そして繊細さも必要だ。
「まだ新人のころ、仕事を早く覚えたいという一心だったので、まかないの時間も惜しいと感じて、かき込むように食べていたんです。そしたらシェフから呼ばれて“それじゃダメだ。もっとエレガントに食べなさい”と怒られました。日常的な所作や言葉遣いといった人間性は、作る料理に出ると言われたんです。それ以降は、テーブルにクロスをかけて、スタッフみんなのコーヒーを用意して、というように日常的にも丁寧な所作を心がけましたね」(別のフレンチレストランに勤務するシェフ、以下同)
ミシュラン独自の5つの基準
ステップアップのために店を渡り歩くこともある。
「ほかのレストランや、より格上の店に挑戦することはよくあります。そうやって実力をつけていくので、オーナーや先輩シェフも特に止めたりはしません。上司に『パピエ』と呼ばれる、履歴書のような推薦状を書いてもらって、それを持ってほかの店に移ることがありますね」
まさに“厨房は闘いの場”─。ミシュランの星を獲得するのは容易ではない。
「星の基準は、一ツ星が近くに訪れたら食べる価値のある優れた料理。二ツ星は、遠回りしてでも食べる価値のある優れた料理。三ツ星は、食べるために旅行する価値のある卓越した料理です。ミシュランは料理が美味しいだけではダメで、独自の5つの評価基準(素材の質、料理技術の高さ、独創性、価値に見合った価格、常に安定した料理全体の一貫性)を満たさなくては、星を与えてはくれません」
星の数が増えるほど、選考基準のハードルも上がっていく。
「雇われシェフなら技術力やマネージメントが伴えば可能だと思いますが、オーナーシェフとして三ツ星をとるとなると、かなり難しいと思います。ワインや内装、備品に至るまで最高の品質が求められるので、資金面のハードルも高いといえます」(花本さん)
華やかな一方で、厳しい競争が繰り広げられるフレンチシェフの世界。次回から、ドラマを見る目線がひと味違ってくるかも!?