ながらスマホは死亡事故につながりやすい
「警察庁のデータによると、ながらスマホ、携帯電話の使用による事故は、10年前に比べ約2倍。ながらスマホの場合、死亡事故につながりやすい。通常の事故は、事前に気づいて急ブレーキをかけたりハンドルを切ったりしますが、ながらスマホ運転の場合は、(対象に気づかず)ノーブレーキの場合も多いからです」
と、JAF(日本自動車連盟)メディアワークスITメディア部部長の鳥塚俊洋氏は、ながらスマホ特有の危険性を指摘。さらに、
「警察庁の資料には、一般的に2秒以上(スマホを)注視すると危険だとあります。時速60キロで約33メートル、高速道路で時速100キロを出していたら2秒で50メートル以上進みます」
と危険性を訴える。
今年5月、ながら運転の罰則化などを盛り込んだ改正道交法が成立した。12月1日から施行される。運転中に携帯電話やスマホを手にしながら通話をする・ナビを凝視するなどの使用等(保持)も、交通の危険を生じさせること(交通の危険)も、現行より大幅に厳罰化される。
「違反点数が、保持が1点から3点、交通の危険が2点から6点になり、一発で免許停止になります。反則金も保持で普通車は6000円から1万8000円に。交通の危険は反則金の対象外となり、1年以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則が科せられます」
交通事故の問題に詳しい弁護士の高山俊吉氏が、そう解説する。そのうえで、
「交通の危険で違反すると前科になります。完全に超厳罰の方針に警察庁が舵(かじ)を取った」
と、法改正の狙いを読み解く。
何度も事故を起こしていても「ながら運転」を続ける理由
冒頭の受刑者は、裁判で「いつか事故を起こすと思っていた」と証言している。実際、
「スマホが原因か定かではありませんが、受刑者は何度も事故を起こしているんです」(前出・井口さん)
それでも続けてしまうながらスマホ運転。なぜなのか?
九州大学教授で、交通心理学が専門の日本交通心理学会の志堂寺和則氏は、
「運転に慣れた人にとっては、運転がそんなに大変な作業ではないからなんです」
と根本理由を前置きし、
「運転が簡単な作業に思えるため、ながら運転をしている人は多い。音楽を聴きながら、同乗者と話しながら、何か食べながら、考えごとをしながらなどです。これが運転の実態です。ながらスマホの場合は画面を注視してしまうことで、周囲への注意力がスマホに奪われてしまいます。これまでスマホを見ながら運転して大丈夫だったという人も、たまたま事故にならなかっただけなんです」