永森さん自身は43歳のとき、6年間にわたる治療生活に終止符を打った。きっかけとなったのは同じクリニックに通い妊娠・出産後にかかった病気を苦にして、自ら命を絶った知人の死と、自分自身に卵巣がんの疑いが浮上したことだった。

「そこから急に不妊治療を続けることが怖くなったんです。いま思うと、きっかけを探していたんだと思います。ずっと“いつやめたらいいんだろう”と思いながら、決断できないでいたので。以前の私だったら、知人の死も自分と重ね合わせることはなかったでしょうし、卵巣がんでなかったとわかった時点で治療を再開していたはずです」

当事者同士で話してみるのもひとつ

 不妊治療をやめるきっかけをつかめずにいる人は今も多くいると思われるが、そういった人はどうしたら決断できるのか。

“治療命”になって、ほかのことが見えなくなり、自分らしさを失っている方が多いので、自分を立て直す環境作りができるといいと思います。治療中は今回ダメならまた次、それがダメならまたその次と、精神的に歯止めがきかなくなることがあります。いったん治療を休み、そこから距離をとってみる。そうやって治療を休むことで自分を取り戻す方もいます」

 ほかに、当事者同士で話してみるのも一案という。

「私ども(MoLive)の茶話会(わかち合いの会)に参加し、ほかの方の話を聞いて、やめる決断をされた方もいました。なかなか人に話せない、話しても理解してもらえないといったテーマについて話せる場があることで、“自分だけじゃない”と孤独感が薄れたり、共有し合うことで気持ちが落ち着いたりと、みなさん想像以上に得るものがあったとおっしゃいます

 不妊治療をやめる決断はとても難しい。子どもが欲しいのはもちろんわかるが、少しでも「やめたほうがいいかも」と思う気持ちが出てきたら、その気持ちを認め、これまで頑張ってきた自分を誇りに思ってほしい、と永森さんは話す。

 なお治療中の人たちは、「不妊治療をやめれば、もう親になれない」と思っていることが多いが、別の形で子どもと家族になるケースもある。里子や養子を迎えるという選択だ。

永森さんの、不妊と向き合った6年間と治療を卒業することを決めた体験をつづった著書『三色のキャラメル』(刊) ※写真をクリックするとアマゾンの商品紹介ページにジャンプします

《PROFILE》
永森咲希さん ◎不妊カウンセラー、家族相談士、キャリアコンサルタント(国家資格)、産業カウンセラー。自身の経験をもとに、不妊治療者やその周囲の人たちに対する支援活動などを行う。