とまあ、試行錯誤が続いたが、'12年の主演映画『ヘルタースケルター』では演技派としての高い評価を獲得。その後は目立つトラブルはなく、来年にはNHK大河ドラマ『麒麟がくる』への出演が決定していた。発表会見では、

「たくさん失敗もしたし、挫折もして学んで、ここまで成長してやってくることができました。(略)沢尻エリカの集大成をここで……、これが本当に自分の集大成だと思っています」

 と、意気込みを語っていたものだ。

 にもかかわらず、なぜこのタイミングでと考えてしまうが、逮捕翌日の『シューイチ』(日本テレビ系)では、精神科医の名越康文氏がこんな指摘をしていた。

世間的には、大復活を遂げようとしている矢先なんですが、基底が弱い、性格の基盤が非常に弱い人は、不安でいっぱいになるんです。成功を非常に恐れる。自分はからっぽなのに、こんなに成功していっていいのか、大きな転倒をするんじゃないか、っていうような、予期不安に打ちひしがれるんです

 順調なときほど生じやすいというその不安が、かつての「別に」騒動や今回の事件につながっているというわけだ。とはいえ「基底が弱いからこそ、何にでも没入できて、その役になりきれる」とも。役にハマれることとヤク(薬)にハマってしまうこととはある意味、表裏一体なのだろう。

女優・沢尻エリカの本質とは……

 ちなみに、沢尻はひとつの役に取り組むとプライベートでもその人格が抜けなくなるほどの「憑依(ひょうい)型」として知られる。つまり、女優としての適性は十分なのだから、問題は人間としてのバランスのとり方だ。

 沢尻は'12年に『週刊文春』で大麻疑惑を報じられた。周囲には「やめられない。これが私のライフスタイル」と話していたという。

 そこで気になるのは、'10年に米国・CNNの取材で発した同じような言葉だ。「別に」騒動のあと、謝罪したことについて彼女は「あれは間違いでした」と語った。

「前の事務所が謝罪しなくてはいけないと言ったけれど、ずっと断っていたんです。 絶対したくなかった。これが私のやり方なんだから、と。 結局、私が折れて。でも間違ってた」

 この取材ではほかにも「才能ある人たちの行動を制限することは、日本の芸能界の最大の問題点」「そうした状況は変えていかなくちゃいけない」などと持論を主張していた。その後「別に」騒動については「ユーチューブで見返したら、自分でも引いちゃって、本当に反省しております」('14年)と、また軌道修正したが、世の中、特に芸能界に対する不満はまだまだ彼女のなかにくすぶっていて「私のやり方」を通したくてうずうずしていたのかもしれない。

 これまでいくつも逆境を乗り越えてきたとはいえ、今回の騒動からの復帰は容易ではない。問われているのは女優としての資質ではなく、人間・沢尻エリカの生き方なのだから。

PROFILE
●宝泉 薫(ほうせん・かおる)●作家・芸能評論家。テレビ、映画、ダイエットなどをテーマに執筆。近著に「平成の死」「平成『一発屋』見聞録」「文春ムック あのアイドルがなぜヌードに」などがある。