土屋死刑囚にとって唯一の “寄り添い人”

 待ち合わせの前橋駅に到着し改札を出ると、“佐藤"さんは薄茶色の軽自動車を背に私の到着を待っていた。東京から来た私に対し、柔らかい笑顔で出迎えてくれた。

 手渡された名刺には『ひだまりサロン 理事 佐藤昌明』と記されている。

 佐藤さんは長い間、前橋市内の公的機関で子どもたちとの生活を送ってきた。彼の仕事は、主に児童養護施設や自立支援ホームなどの公的機関から出されて居場所を失ってしまった子どもたちの生活支援だそうだ。

 土屋死刑囚が高校卒業後の18歳から20歳まで過ごした場所、自立支援ホーム『風の家』は現在、閉鎖されているが、佐藤さんはボランティアとして携わっていたという。土屋死刑囚が『風の家』を出て仕事を始めてからは施設長に就任し、退任までの時間を子どもたちとの時間に費やしたそうだ。

 多くの自立支援ホームは20歳までしかいられず、そこを出るとセーフティーネットは完全に閉ざされてしまうため、大人になってからも助けを求められる場所を作れないかと佐藤さんは考えた。そして2014年10月、アフターケアの事業所『ひだまりサロン』を立ち上げるに至る。理事を務めていたが、後輩に譲渡し、現在はフリーで若者たちのサポートをしているという。

 佐藤さんはまずファイルに挟んだ複数枚の紙を私に手渡した。これまでに関わった子どもたちとの出会いや、佐藤さんのもとを離れていく子どもたちの様子などを綴った体験記のようなものだと教えてくれた。

 そのタイトルは『寄り添い人』。数ある体験記の中に、土屋死刑囚のことが書かれたものがあった。

 佐藤さんは「彼のことをありのままに書いたものです。よかったら帰りの電車で読んでください。気が向いたらでいいので」と言い、ほほえみながら手渡してくれた。

佐藤さんから手渡された土屋死刑囚の“ありのまま”が書かれてあった「寄り添い人」
佐藤さんから手渡された土屋死刑囚の“ありのまま”が書かれてあった「寄り添い人」
【写真】土屋死刑囚から届いた直筆の手紙