体調不良を診断する4ステップ
例えば、1度、病院にかかって風邪と診断され、薬を出される。それでもよくならない、どうやら風邪じゃなさそうだぞと感じたら、病院を変えたくなるのが人情というもの。
ところが、「病気の診断には、きちんと踏むべきプロセスがある」と、前出の海老澤尚先生。
まずはしっかり話を聞いてもらうというのが第1段階。「気のせいですよ」などと言う医師は論外だが、患者側も自分の状態をきちんと説明できることが大切。これが正確な診断の近道だ。
「私たち総合診療科では、最低でも15分は話を聞くようにしています。それでも初診では話していただけなくて、あとから実は……ということも。特に家族関係や人間関係についてはそう。でも、医師と患者が一緒に協力して考えていく、治していく、ということが大切です」(島本先生)
病状に関係ないと自己判断するのは禁物。特にメンタルの病気は環境が原因のことも多いからだ。
「うちのメンタルクリニックでは、初診は約50分かけて話を聴きます」(海老澤先生)
最初の段階では、「緊急性を要する危ない病気なのか、そうでないのかを判断しなくてはいけません」(東京女子医科大学病院 総合診療科診療部長代行・島本健先生)。
まず疑うのは重度の感染症である敗血症や急性の臓器不全など。急性疾患とは急激に発症し短い経過をたどる病で、見逃すと命にかかわるものもある。
「これらの病気を疑いながら、段階を踏んで検査を行い、ひとつひとつ、この病気ではないと除外するプロセスが必要。ほとんどが血液検査で大まかな分類ができるので、その後、適切な検査さえすれば診断にいきつきます」(島本先生)
急性疾患でなければ、慢性の病気の可能性も高まる。
「メンタルの病気でなくても、疲労感やだるさを感じる病気はたくさんあります。甲状腺の疾患や睡眠時無呼吸症候群などもそう。専門性の高い検査が必要なものもあります。これらは検査をすればわかるので、検査結果で異常がなければ、メンタルが原因の可能性が高まります」(海老澤先生)
こうして臨床推論を進め、正しい診断に導いていくのだという。
●STEP1
疲労の状態を確認し、急性疾患を疑う。
血液検査の結果、数値の異常あり。
↓
〈YES〉急性疾患の疑いあり。精密検査へ
主な疾患/急性臓器不全(肝、心、腎、副腎)・敗血症・重症糖尿病
〈NO〉STEP2へ
●STEP2
見逃してはいけない慢性疾患を疑う。
CT、MRI、内視鏡などの検査の結果、異常あり。
↓
〈YES〉慢性(重篤)の病気の疑いあり。専門医や大病院へ
主な疾患/悪性腫瘍・感染症(急性肝炎、結核など)・希死念慮のあるうつ病
〈NO〉STEP3(またはSTEP4)へ
●STEP3
「疲れが取れない」「身体が重たい」のほかに「笑えない」「意味もなく悲しい」などがある。持続が月単位で長く続く、朝方が最も悪く、運動などで軽くなる、日によって変動する、ストレスが多い。
↓
〈YES〉精神科あるいは該当する専門医へ
主な疾患/うつ病・糖尿病・甲状腺機能低下症・貧血・薬剤の副作用・アルコール依存・ウイルス感染 *妊娠(適齢女性)の可能性も
〈NO〉STEP4へ
●STEP4
珍しい難病が隠れている可能性あり。考えられる専門医を紹介する。
主な疾患/線維筋痛症・慢性疲労症候群
「きちんとした医師なら、このプロセスをたどるはず。ところが、早く診断してほしいとあちこちの病院に行かれてしまうと、情報やデータが分断されてしまう。継続して1人の医師に診てもらえばそんな事態にはなりません」(島本先生)