おやつがある人生とない人生では大きく違う

 小川さんなら、どんなおやつをリクエストするのでしょうか。

「最後の食事っていうと、みなさんもう決まっていたりするんですよね。おやつっていうとなかなか決まらなくて。

 おやつの時間って確かに小さいころから振り返って、こういうものを食べたなとか思い出すと、周りに漂っている雰囲気って幸せだったり喜びだったりするので、ああ、自分にもこういう時間があったんだなあ……と思い出すきっかけになるんだと思いました。

 私もそうやって考えて、いちばん最初に思い出したのは、祖母が作ってくれたおやつ。私の食事とかおやつは祖母が準備してくれていたんですけど、準備するものって素朴でおばあちゃんのおやつ的なものだったんですね。お餅を乾かして揚げたおかき、おまんじゅうの天ぷらとか。小さな子どもにとってはちょっと地味ですよね。

 それで文句を言ったら、次の日にストーブの上にフライパンをのせて、ホットケーキを焼いてくれたんです。明治の人だったので、ケーキと名のつくものを焼くのは初めてだったと思います。

 おやつって、生命の維持に特に必要なものではないじゃないですか。ご飯は栄養的に必要なものですけど。身体にとっては必要なくて、でもおやつがある人生とおやつがない人生って比べるとすごく大きな違いがあるんじゃないかなあと。

 人生を生きてきたご褒美を考えると、おやつというものが与えられることによって、すごく救われるんじゃないでしょうか。味とかではなく、思い出とか記憶そのものがおやつには籠もっているんじゃないかなと思います」

《 ライターは見た!著者の素顔 》

 小川さんが主人公の雫と同じ状況になったらどうしますか?

「ホスピスに入りたいですね。私自身は自分が死ぬことについて特別な恐怖は抱いてはいないんです。ただ、痛いとか苦しいとか肉体的な苦痛はなるべく避けたい。

 ターミナルケアの先生にそれを話したら、今はそういった点もきちんと薬で調節できるので心配いらないですと。母も最期は病院で亡くなりましたが、できることならホスピスに入れてあげたかったと思います。本作にはそういう思いも込められているんです」

(取材・文/ガンガーラ田津美)

『ライオンのおやつ』(ポプラ社)小川糸=著 1500円(税抜) ※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
【写真】自身の「思い出のおやつ」について語る小川さん

●PROFILE●
おがわ・いと 1973年生まれ。2008年『食堂かたつむり』でデビュー。以降、数多くの作品がさまざまな国で出版されている。『食堂かたつむり』は、2010年に映画化。『ツバキ文具店』『キラキラ共和国』が「本屋大賞」にノミネート。そのほかの著書に『喋々喃々』『つるかめ助産院』『ミ・ト・ン』など。