「いまはローマに行きたいと思ったら、飛行機に乗れば1日で着くじゃないですか。けれど、500年前は片道3年強をかけて、航海中のたくさんの困難を力を合わせて乗り越えながら、やっとローマにたどり着く。その中で友情は育まれ、少年は青年に成長していきます」

 21世紀のいまは、何事もスピーディーに、簡単に、手短に、イージーにやってしまおうとすることが多い。効率重視。いかに早くコトを進めるかで優劣は決められる。

「友情も恋愛もめんどくさいと公言する若者がいる。一方でマンガの『ワンピース』のように仲間と助け合って困難に立ち向かう友情に胸を熱くする。そういうことに憧れる気持ちもあるのだと、思うんです。

 他人との関係性の中でめんどくさいことがあっても、それを乗り越えて、互いに認め合って、成長していくのが人間の本来のあり方ではないでしょうか

 人間同士の関わりを長い時間をかけて育んだことも、かつてはあった。そんな時代の真の友情が、本書には描かれている。

「お母さんにも、子どもたちにも、おばあちゃんやおじいちゃんにも、親子三代で読んで感想を話してほしいです」

 上巻368ページ、下巻320ページ。計700ページに迫る超大作だが、ゆっくり時間をかけて、原田さんが作り上げた少年期の宗達を楽しみたい。

ライターは見た!著者の素顔

 ユーモアを交えながら執筆エピソードを語ってくれた原田さん。アートに対する深い見解がとても興味深く、予定されたインタビュー時間はアッという間に過ぎました。担当編集者の兼田将成さん(PHP研究所)は原田さんのことを「おしゃれで、とても頼りになる方」と言います。

 加えて「これまで西洋美術を主題に据えることが多かった原田さんが、初めて日本の絵画の謎、歴史小説に挑戦した作品。小説ならではの創造の翼を広げた冒険譚のダイナミズムも楽しんでもらえればうれしいです」とのことでした。

(取材・文/池野佐知子)

『風神雷神』上巻・下巻(PHP研究所)原田マハ=著 1800円(税抜)※記事の中の写真をクリックするとアマゾンの紹介ページにジャンプします
【写真】若き宗達を思い浮かべながらインタビューに答える原田さん

●PROFILE●
はらだ・まは 1962年、東京都生まれ。関西学院大学文学部日本文学科、早稲田大学第二文学部美術史科卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森美術館設立準備室在籍時にニューヨーク近代美術館に派遣。'02年フリーのキュレーターとして独立。'05年『カフーを待ちわびて』で小説家デビュー。『楽園のカンヴァス』で山本周五郎賞、'17年『リーチ先生』で新田次郎文学賞を受賞。そのほか著書多数。