新商品開発で火花を散らす親子
実は、岩沢さん、女性陣にも新しい製品の企画をもっと出してほしいと思っている。
「失敗してもいいんだよ。失敗は仕事で取り返せばいいんだから。作って失敗したら僕の責任だからね」
新製品開発で、岩沢さんと激しい火花を散らしているのは、努社長である。この2人、親子でありながら性格がほぼ真逆であるらしい。
「創業者はせっかちで、何でもすぐやるのに対し、社長は締め切りギリギリまでアイデアを寝かせる」(福島さん)
共通するのは、相手のことを「独断で企画を通す」と主張するところだ。どちらの言い分が真実かはわからないが、2人がいいライバルであることは確か。努社長は姉にこう言っているという。
「父親は、僕の抵抗勢力だ。でも抵抗勢力がいないとダメなんだよね」
岩沢さんは、工場見学の最後に子どもたちに必ず話すことがある。
「夢は寝て見るものではない。書いて達成するまで毎日それを見なさい」
岩沢さんの職場の机には、目標を書いた10枚の紙が貼ってあった。例えば「お寿司クリップ磁石付」は「平成29年6月30日までに必ず作る」。それ以外にも目標達成の日付を明記。目標を書いた日付も記されていて、すべてに「○月吉日」と書かれているところに祈りのような気持ちが垣間見える。この目標は自宅の食卓にも貼ってあるらしい。
「1日3回、食卓で食事をすると3回見るでしょ。そうすると忘れない。そうして目標を達成して、小さいことでもいいから1番になろう。そうしたら、もっと自信がついて、今度はもっと大きな1番になれるよ。一生懸命やれば何でもできるよ」
《おもしろ消しゴムで世界の子どもを笑顔にする》
それがイワコーが目指す大きな夢だが、いちばん笑顔なのは岩沢さんなのかもしれない。娘の美華さんが言っていた。
「作り手が笑顔になるときに、いいものができるから」
工場を案内し、子どもたちに笑顔をもらうことで、岩沢さんはエネルギーをもらっているのかもしれない。
取材・文/西所正道(にしどころ・まさみち) 奈良県生まれ。人物取材が好きで、著書に東京五輪出場選手を描いた『五輪の十字架』(2月に改題して中公文庫として発売)中島潔氏の地獄絵への道のりを追ったノンフィクション『絵描き-中島潔 地獄絵一〇〇〇日』など