誰もが陥る『バイアス』の恐ろしさ
私たちに生まれつき備わったこのバグは、行動経済学では『バイアス』と呼ばれます。直訳すれば「偏ったものの見方」のことで、「人間は常に一定の決まったパターンでミスを犯す」という現象を表した言葉です。
バイアスにはさまざまな種類が存在しており、現時点で研究で確認されたものだけでもおよそ170件以上。それぞれのバイアスには、意思決定を誤らせるもの、記憶を歪めるもの、人間関係を乱すものなどがあり、あらゆる方向から私たちを間違った道に誘い込みます。
適職探しにおいてもその悪影響は変わりません。例えば、『確証バイアス』が代表的です。これは、自分がいったん信じたことを裏づけてくれそうな情報ばかりを集めてしまう心理で、「今の時代はフリーな働き方が最高だ」と思い込んだ人が、独立して成功を収めた人の情報ばかりを集め、同じような考え方をする仲間とだけ付き合うようになるのが典型例です。
いったんこの状態にハマった人は、大企業のいいニュースや独立に失敗した人の情報には目もくれず、最後は自分と違う生き方を好む人たちを批判し始めるケースも珍しくありません。カルト宗教の発生と同じようなメカニズムです。
私たちが克服すべきバイアスは山ほど存在しますが、ここでは『確証バイアス』のほかに、仕事選びの邪魔になりがちなものを簡単に見てみましょう。
◎アンカリング効果
選択肢の提示のされかたによって、まったく異なる決定をしてしまう心理現象です。例えば、あなたが転職先を選ぶ最初の段階で「年収500万」の企業に惹かれたとしましょう。すると、この「年収500万」という数字が基準値になってしまい、たとえ「お金は重要ではない」と頭ではわかっていても、どうしてもそれ以下の年収では物足りなくなってしまいます。
◎真実性の錯覚
繰り返し目にしたというだけの理由で、その情報を「真実に違いない」と感じる心理のことです。ニュースサイトなどで「これからの働き方は従来のルールが通じない」「今後は個人の能力が問われる時代だ」といった文言に何度もふれたせいで、そこに数字やデータの裏づけがなくとも事実だと思い込んでしまいます。
◎ フォーカシング効果
職探しにおいてあなたが重要視するポイントが、実際よりも影響力が大きいように感じられてしまう状態です。「『グーグル』のように社食が充実していたら最高だろう」と思っていれば、社食がもたらす喜びが必要以上に大きく見えますし、「福利厚生だけは譲れない」と考えていれば、福利厚生を重んじる会社が実態よりもよく感じられてしまいます。
◎サンクコスト
「今までたくさんの時間とお金を使ってきたから」という理由で、メリットがない選択にこだわり続けてしまう状態です。何年も頑張って働いてきた職場であれば、いかに業績が傾いてきたとしても、すぐに転職を決意するのは難しいでしょう。過去と自分を切り離すのは容易な作業ではなく、これまたあなたの幸福を下げる要因となります。
◎感情バイアス
自分の考えが間違っているという確かな証拠があっても、ポジティブな感情を引き出してくれる情報に飛びついてしまう心理傾向です。厳しい事実を受け入れるのは誰でも嫌なものですが、ネガティブな感情を避けたいあまりに「好きを仕事にしよう」や「10年後の有望な企業はこれだ!」といった手軽な情報にばかり意識が向かってしまう現象は、誰にでも覚えがあるでしょう。
では、適職探しを邪魔するバイアスを取り除くためのプロトコルとは、どのようなものでしょうか?
前述のとおり、バイアスは山のように存在するため、個別に撃破していくのは得策ではありません。すべての問題にいちいち立ち向かっていたら、適職選びだけで人生が終わりかねないでしょう。
そこで、『科学的な適職』で紹介している、あらゆるバイアスからほどよく距離を置くための包括的なテクニックの中から、特に取り組みやすく効果の高い1点をお教えします。