60か国を訪問
主婦ならずとも初めて作る料理のレシピをクックパッドのサイトで検索した経験はあるだろう。ウェブサイトとアプリを合わせて、国内の月間利用者数は約5400万人でレシピ数は約320万品(2019年9月末日時点)。最近では海外での展開も積極的に行っている。
クックパッドのサイトを検索すると、「世界の台所探検家のキッチン」というコーナーがある。そこでは、岡根谷さんが世界の台所で現地の人たちと一緒に作った料理の写真とレシピが紹介されていた。ブルガリアの家庭料理、スーダンの焼きなす、コロンビアのとうもろこし粉ケーキ、キューバの黒い豆スープ……。
どれも、現地で教わってきたレシピである。
彼女がこれまでに訪ねた国はなんと、60か国にのぼる。
「直近の2年間で訪れた台所の数は50くらいになります」
1回の渡航で滞在期間は2週間ほど。あえて情報は入れずに出向き、知人から紹介してもらった家庭や、現地で出会ったお宅に飛び込む。だから、たまたま訪れた台所が、難民の家庭のこともあれば、大富豪のこともあるのだ。
「世界中の普通の家庭に行って、普通の日のごはんを一緒に料理させてもらうと、料理からその国の歴史、風土、社会や経済の問題とか、いろんなものが見えてくる。それが面白い。料理を通して、遠い世界だと思っているものを身近に伝えたいと思ってやっているんですね」
「例えば」とキューバの話をしてくれた。
「キューバは今も社会主義で、配給制なんですね。主食は主に、黒インゲン豆と米。だけど、最近パスタを食べる人が増えています」
キューバには通貨が2種類、外貨と換金できる兌換ペソと日々の生活に使う人民ペソがある。パスタを買うのは、仕送りや自営業で外貨を手に入れられる人々だという。
「パスタは輸入食品を扱うスーパーでしか買えず、配給制の中にないものなんです。兌換ペソで買うか、25人民ペソを1兌換ペソに換算した額で購入することもできますが、高価な買い物なんですね」
キューバでは、経済活動ができるのは国営企業だけだった。しかし、それだけでは十分なお金を生み出すことができない。そこで、自営業などが部分的に緩和され、外貨を獲得する人が出てきたのだ。
「もうひとつの理由が、シングルマザーが増加したことなんですよ」
社会保障がしっかりしているキューバでは、教育費も医療費もかからない。だから、結婚生活がうまくいかなくなると、簡単に解消され、シングルマザーが増えているという。これまで、アメリカの経済制裁で物が豊かに入ってこない環境の中では、大家族で暮らしたほうが合理的で、手間はかかるが1度に大量に作れる豆や米料理が主流だった。
「ところが核家族でお母さんと子ども2人だけだったら、パスタみたいなすぐ作れる料理のほうが合理的なんです。そこで、ちょっと高いけど、時間をお金で買う感覚でパスタが選ばれるようになった。そういうところに社会の変化が表れているんですね」