2019年は、「ひきこもり」という社会問題に関する、大きな事件や出来事が続く年だった。
20年以上にわたってひきこもり問題を取材し、1000人を超える当事者の取材に当たってきたジャーナリスト・池上正樹さんも、「昨年は、エポックメイキング(新時代を切り開くほど画期的)な年だった」と語る。その筆頭が、全国的なひきこもり実態調査の結果が、内閣府によって発表されたことだ。
ひきこもりは「115万人の2倍はいるだろう」と専門家
長らくの間、ひきこもりは更生すべき青少年の問題だと語られ、“大人のひきこもり”──定義としては40歳以降──は、対策するための予算や根拠法がないため、その存在を消し去られてきた。しかし、'19年3月に発表された、内閣府による実態調査の結果、40歳から64歳を対象にした「広義のひきこもり」が、全国で推定61万3000人もいるとわかったのだ。
平日の昼間、多くの人々が仕事や学業に精を出すさなか、暗い部屋でひとり塞ぎ込む。定職に就かず、親が甘やかし続けるため、本人は怠けて部屋を出ない──。これが、マスメディアを通して語られ、世間で醸成(じょうせい)されてきた、ひきこもりのイメージだろうか。
しかし、調査データによると、当事者たちがひきこもりに陥ったきっかけのトップ5は下記の通りだった。
1:退職した(36.2%)
2:人間関係がうまくいかなかった(21.3%)
3:病気(21.3%)
4:職場に馴染めなかった(19.1%)
5:就職活動がうまくいかなかった(6.4%)
(※参考:内閣府『生活状況に関する調査 (平成30年度)』より)
また、正社員として働いたことがある人は73.9%、契約社員、派遣社員又はパート・アルバイトとして働いたことがある人は39.1%にのぼる(複数回答可の本人質問)。
“怠けて働かない”という世間の抱く偏見には、まったく根拠がない。内閣府のデータは、そう示していたのだ。15歳〜64歳までを合わせた全国の推計は、実に115万人にもなる。
この数字について、池上氏はこう分析する。
「深刻な状況にいる人ほど、自身をひきこもりだと自認していない、または、そう答えたくないケースが極めて多いです。この調査は本人と家族への質問なので、おそらく当事者であっても、申告しなかった人も多いはず。長年の取材による勘でいえば、実際はこの数字の倍は存在する可能性があると思います」
'98年に『社会的ひきこもり』(PHP新書)を上梓し、ひきこもりという言葉が世に広まるきっかけを作った精神科医の斎藤環氏も、「『ひきこもり』という言葉がスティグマ(個人に不名誉や屈辱を引き起こすもの)なので、偏見を恐れて申告しない人は多い。少なくとも2倍はいるでしょう」と語る。