脅しのような“水際作戦”に直面
生活保護の申請には、厳しいチェックや担当者の冷たい対応という大きな壁が立ちはだかると聞く。山上さんが受けた対応も、いま思い出しても恐怖でしかなかったと振り返る。
“初回面談担当者”は経験豊富な年配者で、受給を申請に行くと、まず奥の面談室に連れていかれ、外から見えない席に座らされるという。そして第一声は、
「何しに来たんだ。金をもらいに来てるのか? ここはそういうところじゃないから帰れ。ハローワークがあるだろう。働けるんだったら働け。お金がない? みんなお金がないんだよ!」
と、腕を組み、高圧的な態度で終始、対応された。そして最後は、
「今回は申請ではなく相談ということでいいな。相談で対処させてもらった。ご苦労さま。もう帰っていいから」
と締めくくった。
まさにこれは“水際作戦”にほかならない。受給者を増やさないよう、藁(わら)をもつかむ思いで申請しに来た人の思いを弾き飛ばすのだ。
「最初に行ったとき、私は怖くなって申請をあきらめました。女性ならば、もう2度と行こうと思わないのではないでしょうか。すべての窓口がこのような対応ではないかもしれないし、中にはいい人もいるとは思いますが」
と、ため息をつく山上さん。
受給できなければ、もう限界という状況であったため、今度は生活保護申請のサポートを請け負う相談窓口に頼った。スタッフがあらかじめ生活保護窓口に電話を入れてアポイントを取り、当日はスタッフ2人に付き添ってもらい面談に向かい、無事に申請することができたという。
こうして申請が受理された山上さんは、生活費に当たる生活扶助と、医療扶助などを受けている。生活扶助は月約7万7000円で、医療扶助はかかった医療費を全額負担してもらえる。山上さんは、
「生活保護を受ける前は、国民健康保険料が高くて払えず全額負担でした。病院へ行きたくても行けない、そんな状況でした。支払いの負担を減らすため、医師に処方する薬を間引きしてもらったこともあります。いまは、必要な医療を受けられるので、感謝しています」
と語る。
ただ、生活扶助の金額に余裕はまったくないと明かす。食事は自分で調理したり、スーパーのお惣菜を利用しながら、身体のために3食きちんととるようにしている。今年の冬は灯油も購入して寒さに震えることもなく、生活はできる。ただ、ポータブルストーブのような耐久消費財が壊れたとき、買い替えの費用が出せないのだ。
山上さんは、長らく使っていた冷蔵庫やガスコンロも壊れたが、新しいものを購入する余裕はない。
「洗濯機は昭和時代に買った二層式を使っていて、いつ壊れるか。炊飯器も壊れてから20年以上、使っていません。古いパソコンの処分費用の申請もしたけれど、却下されました。いまだに処分できないまま自宅に置いたままです」
使用できるものが日々減り続けていく生活だが、申請が通った事例もあるという。
「町内会から火災報知器をつけるようにと言われました。ですが、お金がなく買えないので申請したところ、代金は、施設設備として一時扶助を出してもらいました。あと、昨年、台風の影響で網戸が壊れてしまったんですが、これも申請したら受理してもらいました」(山上さん)
福祉に殺されかけた事実を訴えたい
今回、山上さんが石油ポータブルストーブの買い替え費用の支給を却下され、札幌市を訴えたのは、自分が福祉に殺されかけたという意識があるからだ。
確かに、買い替え費用は自分で貯めて払うのが基本とされているが、一時扶助として資金を出せる要件もある。例えば、長期入院のあとや、地震などで被災して新しい家を借りる際にストーブがないといった場合だ。
北海道において暖房器具は、なければ命に関わるもの。しかも、山上さんは心臓の病気を抱えている。発作が起きると、救急車では間に合わないため、専門医が24時間待機している病院へタクシーで直行する。そのため限られた生活扶助費からタクシー代8000円を常に身近に取り置いている。
「担当の部署は、私のことを助けることもできたし、そのお金(予算)も持っていたのに、見捨てたわけです。私にとってみれば、札幌市に殺されかかったと考えています。それをわかってもらって、けじめをつけたいと思ったのです」(山上さん)
最後に山上さんに、いま楽しいと思えることを聞いた。
「楽しみはないです。ただ、生きていてよかったと思います。生活保護という制度がなかったら今の私の命はありません。窮地にいる人は勇気を出して申請してほしい」
次回の公判は4月20日に行われる。