1本でテキーラ約4杯ぶん
山崎さんや永吉さんのように、ついついストロング系チューハイに手を出してしまうような女性たち。その背景には、日々の暮らしのつらさや悩み、漠然とした孤独感、将来への不安があるという。
「つらさや悩みを抱えていると、仕事の作業効率が低下します。仕事が疎かになるからミスが増え落ち込み、さらに作業効率が低下する悪循環のスパイラルに。
そんな中で飲み始め、早く酔うためには、安くて口当たりのいいストロング系チューハイがいちばんいい。
アルコール依存症の人の飲酒は、楽しむために飲むのではなく、つらいから飲む、苦しいから飲む。つまり酔うために飲んでいるんです」
こう語るのは、アジア最大規模の依存症治療施設である『大森榎本クリニック(東京都・大田区)』でアルコール依存症をはじめ、さまざまな依存症の治療に携わっている精神保健福祉部長の斉藤章佳さんだ。
斉藤さんが言う。
「だいたい2年ぐらい前から、アルコール依存症の患者さんが飲むお酒の内容が変わってきていますね」
それ以前は、アルコール依存症の人が飲むお酒といえば、4リットルの大型ペットボトル入り焼酎やワンカップ、紙パック入りの日本酒のようにさまざまな種類のお酒が飲まれていた。
「それが今では500ミリリットルのストロング系チューハイばかり。それがどれもみな、アルコール度数9%以上のものなのです。
量も異様で、45リットルのゴミ袋が空き缶で満杯で、それが3袋ぐらい普通に転がっていたりする」(斉藤さん、以下同)
焼酎や日本酒などと違い、ストロング系チューハイは500ミリリットルで1本150円程度。プライベートブランド品なら100円前後ときわめて安価だ。
さらにはアルコール度数9%ならば1本に入っているアルコール量は36グラムで、これはテキーラをショットグラスで4杯弱分に相当する。200円にも満たない金額で、テキーラ4杯と同じぐらい酔えるのだ。
「安くて飲み口がいい、つまり早く酔えるから、飲むペースが速くなる。ペースが速くなると、血中濃度が急激に上がり急性アルコール中毒のような症状が出る人もいます。
特にストロング系チューハイは、自傷行為が増える、急に窓から飛び降りる、車道に飛び出すなどとっぴな行動をとることもあり、われわれ専門家にも症状の出方が予測できない怖さがあります」
“量も飲めれば、酔いも早い”ストロング系チューハイの危うさは当時者たちも感じているようで、“酩酊(めいてい)感がこれまで飲んできたアルコール飲料とは別次元だ”という声が聞かれるという。