断酒でなく減酒でつながりを取り戻す
こうした心の痛みを和らげ、人はなぜ依存症になるのかという本当の原因を理解したうえで治療に取り組もうと、医療機関でのアプローチが、以前とはまったく違うかたちに進化しつつある。
「依存症一歩手前の段階で相談できる機関として、“減酒外来”というのがあります。お酒を減らしていくための外来で、どうやって減らしていくかを一緒になって考えます。決して断酒を強制されることはありません」
減酒外来で行われるのが、レコーディング(記録)による治療法だ。適正飲酒量を理解したうえで、カレンダーに毎日、飲酒量を記入、1か月にどれだけ飲んだかを把握する。それを週ごとや月ごとに比較するのだ。
「アルコール量が減ればγ-GTP(アルコールによる脂肪肝などの目安となる)の数値も減るし、体重も減ります。確実に身体が健康的に変化していきます。こんなふうに、お酒の量と健康との相関関係をきちんと見ていく。これはすごく有効なアプローチで、多くの人が適正飲酒量に近づいていきます」
こうした方法で、まず“人間らしい生活を取り戻してもらうこと”が最近の治療傾向だという。
「ポイントは生活習慣の改善と“つながりを取り戻す”です。依存症者はお酒によって家族や仕事など、いろいろなつながりを失ってきました。われわれ専門家は当事者が酒で何を失ってきたかを客観的に評価して、その関係性に介入することで家族関係を修復したり、新しいつながりを作るサポートをします。
極論的には酒をやめさせることではなく、死を防ぐことが重要。なので、治療の継続率に重点を置きます。これが最近のアルコール治療の基本的な考え方です」
“酒は飲んでも、飲まれるな”そんなことわざがある。お酒は本来、おいしく楽しく適量を飲むもの。もちろんだが依存症や認知症、また死のリスクを負ってまで飲むものではない。ストロング系チューハイにしても夫婦や家族、仲間とシェアして適量を飲み上手に付き合っていければ、われわれ庶民のフトコロにとってこれほどありがたいものはない。
ストロング系チューハイを毒にするのも楽しいパートナーにするのも、実は私たち次第なのである。
(取材・文/千羽ひとみ)
【識者PROFILE】
斉藤章佳さん ◎大森榎本クリニック精神保健福祉部長。精神保健福祉士、社会福祉士。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにソーシャルワーカーとして、約20年にわたりさまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床。全国での講演も含め、その活動は幅広くマスコミでもたびたび取り上げられている