マスクだけで対策したつもりにならないで
一方、一般人はどうしたらいいのか? 答えは、ほぼただ1つ。これまで繰り返し言われている「ステイホーム」、外出をなるべくひかえて自宅にとどまり、自分自身が感染しないことである。
具体的にあげると、(1)日常生活の必需品の買い物も2~3日に1回のまとめ買いにする、(2)外出先でアルコール消毒薬の用意がある場合は躊躇(ちゅうちょ)なく利用、(3)外出からの帰宅時は接触感染を予防するために必ず手を石けんで十分に洗う──だ。
マスク着用はそれ単独での予防効果は医学的に証明されておらず、手洗いの励行とセットで効果があるとされている。これはマスクを着用していてもウイルスなどで汚染された手で口や鼻などの周辺を触りがちなこと、マスクだけで対策したつもりになり接触感染ルートを遮断する手洗いがおろそかになるからだと見られている。逆に言えば、「マスクをするなら必ず手洗いも」ということである。
また、昨今では感染予防のためのソーシャル・ディスタンス(社会的距離)の確保の必要性が盛んに叫ばれている。スーパーやコンビニのレジ前ではまばらに人が並ぶ姿も見受けられるが、店内全体で見ると混雑している時間帯もある。営業時間短縮などを求められた飲食店では、閉店時間の午後8時前などには電線に並んでとまるスズメのごとく席を詰めて座る客の姿を見ることも珍しくない。こうした場所では利用する時間帯や頻度の再考が必要だろう。
当たり前の行動が医療崩壊を防ぐワケ
さらに、新型コロナウイルス感染症は、高齢者や脳血管疾患、心臓疾患、糖尿病、高血圧、慢性呼吸器疾患(ぜんそくなど)がある人で重症化や死亡のリスクが高いことがわかっている。ただ、該当する人の多くは通院という外出が不可欠になるが、新型コロナウイルスの流行後、厚生労働省が電話診療も含む遠隔診療の適応範囲を広げており、特に症状悪化や服用薬の変更がない場合は遠隔診療も利用できる。病院外の保険調剤薬局での薬の受け取りについても郵送・宅配などに対応しているところは少なくないので、利用を検討したいところだ。
そしてなにより、これらの基礎疾患がある人は薬の飲み忘れなど治療を怠ることがないようにしてほしい。これらの疾患のコントロールが悪ければ、それも重症化、死亡のリスクになるからだ。
さらに言えば、前述のような最前線で活動する医療従事者への差別も厳に慎むべきだ。一部で院内感染が報じられているとはいえ、病院での感染予防対策は一般人の対策と比べ、ケタ違いに厳格である。見えぬ危険に怯えるのはヒトの性だが、無用な差別で医療従事者が最前線から離脱すれば、今の時点でも医療崩壊は容易に起こりうる。そうなれば新型コロナウイルス感染症に限らず、すべての疾患での診療機能が低下して、結局、差別行為が最終的に自らの首を絞めることになる。
そして、このような当たり前の行動を厳守することで、一般人も医療崩壊を防ぐプレーヤーになりうるのだ。
取材・文/村上和巳 ジャーナリスト。宮城県出身。医療専門紙記者を経てフリーに。医療、災害、国際紛争などの取材執筆に取り組んでいる。『二人に一人がガンになる 知っておきたい正しい知識と最新治療』(マイナビ新書)ほか著書多数