「馬や牛の胃の中にある胃石は、消化を助けてくれると言われていました。神聖なものとして宝石同様に飾る人もいれば、胃石を削って飲むことで自分の消化も助けてくれるのではないかと考える人もいた。
ヨーロッパでペストが大流行した14世紀のころ、医薬品に関する品質規格書である『薬局方』には、万能薬や解毒剤として胃石が記載されていました。民間療法のような感じではなく、薬剤師が学ぶ本に薬剤として胃石が並んでいるのがおもしろいところですね(笑)」
ペスト流行の際はミネラルを摂取するために土を食べた、失恋を含め精神的に落ち込んだら心不全になるまで血を抜く、美しく輝く放射性物質(ラジウム)は美容によいと盲信し化粧品に応用したなど、世界のトンデモ医療は枚挙にいとまがない。
「科学的、医学的エビデンスに乏しいからこそ、何をすれば助かるのかわからなければ、誰もが不安に陥ります。正しい治療法が確立されていない時代だからこそ、現在では考えられないような治療法を促進させてしまったのではないでしょうか」
デマ治療法にダマされないために
医学が進歩した現代に生きるわれわれには関係のない話─、とは言い切れない。岩永さんが諭す。
「ペストが流行した際も、途中からペストの話ではなく、人間の話にすり替わっているんですね。ペストがどんな病気か、について話をするのではなく"あの人が使っているから”"どうやら新しく登場した治療法がいい”……そういった話ばかりが横行し始める。
医学について考えようとしないから、間違った医療法がどんどん伝わっていってしまう。現在のコロナ禍でも、ウイルスの話をする以上に、"政治や行政の判断が悪い”とか"他国はこういったことをしている”といった話にすり替わりつつある(苦笑)。もしかしたら、今も昔もそれほど変わっていないのかもしれないなって思います」
昔に比べると、はるかに情報は明確で収集しやすくなった。しかし、裏を返せば、デマも広がりやすくなったということ。
「最前線で治療をしている人からすると、デマの治療法が拡散され、盲信してしまう人を見ると、モチベーションを保つことが難しくなります。医療人が疲弊しないためにも間違った医療情報を鵜呑みにしないでほしいです」
そう遠くない未来、新型コロナウイルスに有効なワクチンが開発される日が来るだろう。だからこそ、怪しい情報に踊らされないという免疫も身につけておいてほしい。
取材・文/吾妻アヅ子
いわなが・てつや 俳優・モデル・薬剤師。'09年『MEN'S NON-NO』の専属モデルとしてデビュー。『テラスハウス』『仮面ライダーエグゼイド』で一躍、注目を集めるように。世界人口上位2%のIQを有する人の団体『JAPAN MENSA』の試験を受け、会員認定を受けるほどの頭脳を誇ることもあり、クイズ番組でも活躍中。