オンライン教育で格差はさらに開く

 臨時休校が続くことへの対策として、学校現場では「オンライン教育を行うことで学力の低下を防ごう」という動きがある。しかし、「臨時休校する」と答えた1213の自治体を対象に文部科学省が行った調査では「教員と児童・生徒が双方向でコミュニケーションをする遠隔指導を実施している」と回答した自治体は、4月16日時点でわずか5%だった

 このように、画期的なオンライン教育は実現までほど遠いのが現状だ。だが今後、オンライン教育の普及が進んだ場合、学校に行かなくてもいい効果が期待できるのだろうか。

「遠隔教育に関する過去10年の研究をざっくりまとめると、対面での教育と比較して(1)非常に限定的で、(2)もともと成績の低い生徒は負の影響がより大きいため、こうした層への特別の配慮・サポートが必要であり、(3)『規模の経済』(スケール・メリット)が働くため、教育のコスト削減の効果は期待できる、と言えます」

 スイスの総合大学の学生を対象にした研究では「もともと成績のよかった生徒は成績が上昇し、悪かった生徒は低下した」という研究結果もあるそう。このことからも、オンライン教育は、格差がさらに広がる可能性があると思われる。

 このような事態を懸念し「オンライン教育はうまくいかないのでは?」という声が、学校現場や家庭からもあがっている。また、「ならば9月入学にしたほうが、取り残された児童の遅れを回復し、入試までの時間も稼げるだろう」などという理由から、9月入学に魅力を感じる人もいるのではないだろうか。

 そもそも、今回の数か月にわたる臨時休校で生じたと考えられる問題としては「平均的な学力の低下と、学力格差が拡大したこと」と、中室教授は指摘する。これらへの対策として「9月入学」は妥当なのか。繰り返すが、現在、世の中で主に議論されているのは「子どもたちを5歳の秋に入学させ、入学を半年早める」というパターンではなく、「6歳の秋に入学させ、入学を半年遅らせる」というものだ。

 中室教授によると、授業日数や時間を確保することが大切だということは、過去の研究からも明らかであるという。

「ドイツで行われた研究では、学習内容を変更せず、37週から24週へと授業時間を短縮させた場合、学生の留年率を高め、高校進学率を低下させることがわかっています。また、アメリカの州ごとの授業日数や時間数の差に着目した研究では、学校での授業日数や時間数の増加が学力にプラスの影響を与えることが示されています。学習内容を変更しないのであれば、従前と同じ授業日数や時間数の確保が必要だと考えられます

 ならば、このままカリュキュラムを変更しないとなると、やはり授業時間を確保するために9月入学が望ましいのか? それとも、土曜授業や夏休みの短縮などの対策をとるほうがよいのだろうか。

 暑い時期に授業を行うには課題もあるという。アメリカで行われた研究によれば「学期中の気温が(華氏)1度上昇すると、1年間の学習量を1%失う」というデータがあるため、夏休みを短縮する場合は、エアコンの設置を急ぐ必要がありそうだ。