できるだけ多く払わせるのが夫への復讐
明子さんは今でこそ専業主婦ですが、看護師の資格を持っており、独身時代の年収は500万円。不倫中の夫の細かな言動に一喜一憂していては精神的に大変なので、離婚を先延ばしにするのは難しいでしょう。明子さんが今すぐ職場に復帰し、夫から必要最小限のお金を援助してもらえば、経済的に自立することは十分に可能でしょう。
しかし、明子さんは「まだ働こうとは思っていません!」と断言します。なぜでしょうか?
「私の収入が多ければ多いほど、あいつからの養育費や母子家庭の手当は減らされるんですよね。これじゃ何のために働くか分かりませんよ! できるだけ多く、払わせるのがあいつへの復讐だって思っています」と言います。相談時は4月中旬。医療従事者の人手不足により十分な医療を提供することができない「医療崩壊」の危機が迫っており、看護師会が職場を離れた元看護師に復帰を促すと報じられた時期ですが、明子さんは復帰をしないと言い切ったのです。
「とりあえず、あいつは泳がせておこうと思っています!」
明子さんはそう言いますが、当時、長女の小学校は休校中。高齢の両親に任せるのは不安だと、明子さんが直接、教えることに。医療機関はクラスター感染のリスクもあるのでコロナが収束したのを見届けてから仕事を探すそうです。そして収入が安定し次第、離婚を切り出すつもりで、明子さんの口ぶりからは用意周到な性格が感じ取れました。
夫の収入減が妻の決意のタイミングになる
本来、有事というのは夫婦の絆を再構築することができる稀有(けう)な機会です。離婚寸前の夫婦が災害による避難、病気による看病、怪我による入院などによって配偶者のありがたさを再認識し、やり直す方向へ転換したケースを筆者は数多く見てきました。
人生最大級の有事に遭遇することで夫が反省し、心を入れ替え、言葉や態度を改めれば、コロナ離婚には至らないでしょう。これは妻のことを第一に考え、感染対策に協力し、社会貢献を継続している場合です。
しかし、今回はどうでしょうか? 明子さんの夫が相変わらず自分第一で、感染対策を無視し、自粛をしなかったのです。だから、明子さんは「何があろうと夫が変わることはない」ことに気づき、復縁の余地はないという結論を出したのです。
今回のような非家庭的な夫が今まで許されたのは、十分な生活費を渡してくれたから。コロナショックは尊い人命を奪うという直接的影響だけでなく、明日の金銭を失うという間接的影響も甚大です。例えば、今回は海外赴任の打ち切りによる手当カットですが、それ以外にも筆者は職場休業による給与カット、在宅勤務による残業代カット、本社倒産による外資系企業のリストラなどの場面を見てきました。
妻の頬を札束で引っぱたくような行動を繰り返してきた夫の収入が大幅に減ったら、どうなるでしょうか? これ以上、我慢したくないと妻が覚悟を決めても不思議ではありません。
まさに金の切れ目が縁の切れ目という感じですが、妻への不義理はスナックのツケ払いと同じ。いつまでもツケを解消しないとママの不満が爆発し、出入り禁止になりますが、それが夫婦でいうところの離婚。
妻は我慢の限界に達し、結婚生活を続けることをあきらめ、離婚へ踏み出すのです。しかもコロナによって妻が爆発するタイミングが早まったのは間違いありません。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/