コロナ自粛中も本気でダンス
もともと誰かを応援するために広がったチア。年をとっても楽しんで踊ることが、多くの人を勇気づける。それで自分も元気でいられるなら、最高だ。
パソコンの画面越しではあるが、2年ぶりに会う滝野さんは、まったく変わっていなかった。メイクもバッチリで、耳元には金色のイヤリングが揺れている。
今年10月に予定していた結成25周年記念のチャリティーショーの準備を昨年夏から始め、練習が軌道に乗ってきた3月初旬にコロナ禍でストップ。練習場所の体育館が7月まで使えないため、先がまるで見通せない。
ひとり暮らしの滝野さんは自粛が続く間、近くに住む娘以外、誰とも会っていなかったそうだ。それでも、規則正しい“幽閉生活”を続け、健康を維持している。
朝6時に起床し、NHK Eテレで10分間放映されるラジオ体操に合わせて身体を動かす。朝食後は涼しいうちに近所を1時間ほど散歩。人の少ない外ではマスクをせず、空気を存分に吸う。
午後は“大人のための塗り絵”にハマっている。友人が使わなかった冊子を4月に送ってくれたので、すぐに72色の色鉛筆を購入。全72ページを1か月半で塗り終わってしまい、自分でもう1冊購入したほどだ。
「友達とも会えないし、あー、もうイヤだとイライラすることもあるけど、考えてもしょうがないことはスルーしちゃう。今は塗り絵に熱中しているから、あまり深刻にはならないのかも。熱中しすぎて、中指と小指にはタコ、人さし指はむくんだのか指輪が入らなくなりました(笑)。
塗り絵もパソコンもそうだけど、新しいことをやるのが大好き! 面白そうだなと思ったら、とりあえず何でもやってみる。やりたがりですね。本当はね、今日のテレビ電話にも最初からこれをかぶって出ようと思ったけど、やりすぎかなと思って我慢したのよ(笑)」
そう言いながら滝野さんが取り出し、かぶってみせてくれたのはなんとオレンジ色のウイッグだ。友人との旅行にはピンクやシルバーなど数種類を持参。みんなでかぶって遊ぶと毎回盛り上がる。しばらくは好きな旅行にも行けそうにないが、家で鮮やかなウイッグをかぶって、軽快な音楽に合わせて踊るだけでも気分が上がるという。
毎日、それなりに楽しみを見いだしてはいるが、やはりチアは特別だ。チャリティーショーで自分が踊る予定の3曲の自主練を続けている。
「できるだけ歩くようにしていますが、本当に体力が落ちてますね。3曲続けてやっても7、8分なのに、本気でやるとすごく疲れちゃう。週1回2時間でも練習をしているのとしていないのでは、大きな違いが出てくるんですね。それに、チアはみんなで踊ってなんぼという競技だから、ひとりで練習しても限界がある。一緒に踊らないと、わからなくなっちゃうことがあるんですよ。毎日おさらいしてるのに、あれ、ここはどうだったっけと(笑)」
一刻も早く全体練習を再開したいが、メンバーとはLINEでメッセージのやりとりをするだけで顔を合わせていないので、なかなか話が進まない。
コロナに感染すると高齢者はリスクが高いと報じられているが、滝野さん自身は正確に情報を把握して対処すれば過剰に怖がる必要はないと考えている。だが、メンバーの中には高齢者施設や保育所で働く人もいて慎重な意見もある。自分のせいで誰かがかかると困るので無理には誘えず、もどかしさが募る。
「半分は思い込みかもしれないけど、私は大丈夫だと思っているんですよ。“滝野さんは元気、元気”と、みんなも言うし、自分でも元気だと思うから、元気でいられるところもあると思いますね。薬やワクチンが開発されるまでは終息しないわけだから、怖がってばかりいたら何もできないと思うんですよね。もう年だからコロナじゃなくても、いつどうなるかわからないし。体育館がダメなら外でもどこでもいい。いっそ、みんなで日比谷公園にでも行って、踊るか? アハハハハ」
身体を揺らして笑う滝野さん。やっぱり最高だ!
撮影/伊藤和幸、齋藤周造
取材・文/萩原絹代(はぎわらきぬよ)大学卒業後、週刊誌の記者を経て、フリーのライターになる。'90年に渡米してニューヨークのビジュアルアート大学を卒業。'95年に帰国後は社会問題、教育、育児などをテーマに、週刊誌や月刊誌に寄稿。著書に『死ぬまで一人』がある。