不倫がバレて
前妻に慰謝料200万円を支払った

 筆者が疑問に思ったのは、楓さんのスマホにつぼみの連絡先(メールアドレス、LINEのID、携帯番号等)が登録済だったこと。元夫婦とはいえ子どもがいます。そのため、康生のスマホにつぼみの登録が残っているのは分かりますが、康生から「前妻の連絡先」を聞き出したり、こっそりスマホを盗み見したり、前々から知り合いだったりしたわけではないのになぜ?

慰謝料を払ったほうが早く離婚できるって思って、200万円を渡したんです!」

 楓さんは当時のことを振り返りますが、康生と知り合ったとき、まだつぼみと結婚していたのです。すでにつぼみとは別居していたようで、康生は結婚指輪を外し、スマホの待ち受け画面を家族からラーメンに変え、昼食は手作りではなくコンビニ弁当。康生は「すぐに離婚できる」と伝えていました。だから、楓さんは康生が妻子持ちだということを知らなかったわけではありません。

 交際中、楓さんは康生からつぼみの悪口や愚痴、不満などをたくさん聞かされたそう。例えば、第一に彼女の性格のキツさ。夫が魚嫌いなのに、わざと食卓に魚料理を並べるのです。康生が文句を言うと「もう作らない」と逆ギレするのでタチが悪いです。第二に束縛癖。康生の財布やスマホ、財布のなかのレシートやクレジットカードの明細まで事細かく調べ上げ、「馬鹿」「ボケ」「死ね」と暴言を浴びせてくるのです。

 楓さんは康生のことがかわいそうになり、私なら彼を幸せにしてあげられると、一緒になることを決めました。やはり恋は盲目。楓さんは康生が妻帯者であることを忘れ、夢中になったのですが、そんな矢先、つぼみから封筒が届いたのです。

 中身は慰謝料の請求書と興信所の調査書。まず請求書には不貞行為の慰謝料として2週間以内に200万円を振り込むように書かれていました。「もはや夫婦の形をなしていないのに、何なの?」と楓さんは請求書を持つ手が震えたそうです。

 次に調査書ですが、6月10日20時17分、楓さんと康生が一緒にホテルへ入る瞬間の写真、翌6月11日9時40分、2人が一緒にホテルから出てくる瞬間の写真などが貼付(ちょうふ)されていました。楓さんの住所は地下鉄が通っていない郊外。もし康生の車で移動した場合、GPSの情報をもとに行き先を特定される可能性があります。そのため、2人は市営バスでホテルへ向かったのですが、待ち合わせたのは康生の会社。そこから徒歩で停留所へ移動したので、会社の玄関で待ち伏せしていた興信所の人間にあとをつけられたというわけ。当日の行動履歴はつぼみに筒抜けだったのです。

 過去の裁判例(東京地方裁判所・平成19年5月31日判決)によると、これらの写真によって不貞行為(肉体関係)を証明することが認められているので事実認定に関して楓さんの言い逃れの余地はありません。

 それ以外にも、花火大会で楓さんが左腕を康生の腰から尻へ回したり、楓さんが自分から彼の頬へキスをしたり、2人が地面に座っている状態で楓さんが自分の頭を彼の肩へ預けたりしている瞬間の写真も含まれていました。

 2人の関係性は「不倫カップル」。そのため、自分たちの存在に気づかれないよう、なるべく目立たないように人目を憚(はばか)るべきでしょう。しかも当日は県内最大の花火大会。付近にはおびただしい数の人がいるにも関わらず、まるで人様に「不倫」を見せびらかし、周囲の注目を集めるような振る舞いをするなんて……。

「あのときは熱くなっていて……本当にうかつでした」

 と楓さんは反省の弁を口にしますが、女手ひとつで長女を育てる楓さんにとって200万円は大金です。しかし、慰謝料は“公認料”のようなもの。つぼみが慰謝料を受け取ればふたりの関係に口出ししにくなり、楓さんは何ら恥じずに康生を愛することができる。そう思って、つぼみの言い値を振り込んだのです。

(後編に続く)

※後編は6月27日20時30分に公開します。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/