金箔を使った豪華な『名古屋仏壇』
ただ、葬儀以外にも準備すべき費用があり、それらの金額も地域で異なる。
ひとつが仏壇。これも富山県は第1位。前出の男性は、
「富山県人は見栄を張りたがりますからね。かつて仏壇や家の大きさを競う文化がありました。家や仏壇の大きさが権力のステータスになっていたように思います」
と明かす。小林さんも、
「仏壇は北陸や中部地方が断トツで高かった」
愛知県、岐阜県、三重県、静岡県の一部には『名古屋仏壇』という伝統的な仏壇がある。名古屋仏壇商工協同組合の山田宗宏理事長に聞いた。
「名古屋仏壇はかつて木曽三川で発生していた水害から仏壇を守るため、台が高くなっているのが特徴です。また、他地域の仏壇は複数の工程を1人の職人が担うこともありますが、名古屋仏壇は彫刻、蒔絵など8部門の各工程は専門職人が担当、分業してひとつの仏壇をつくります」
内側には金箔、寺院にも使われる金具や彫刻を小さくしたもので飾り、豪華な構造になっている。それはまるでお寺を小さく凝縮し、自宅に置くようなものだという。
「愛知県の古い家は玄関を入るとすぐに客間があり、そこに代々仏壇を設置してきました。大きな仏壇に買い替えることを出世仏壇といい、商売繁盛すればおごることなく、謙虚であれ、と後継者にその姿を示す意味も込められていたようです」(山田さん)
時代とともに核家族化が進み、家の大きさも縮小。行事に参加する親戚の人数も減ってきた。仏壇自体も簡素化されたり、輸入品も増えた。名古屋仏壇も需要の減少が続けば今後、貴重な伝統技術が失われるおそれもある。
しかし、「仏壇はいらない」「小さい仏壇に買い替えよう」という終活中の声がある一方で、半畳サイズで120万円~、大きいもので1000万円する名古屋仏壇を求める人も少なくない。