前出のクレハの小林さんは、
「家事分担を描くというのは、なかなか難しいものでした。分担の意思や状況はご家庭ごとに大きく違い、一概には語ることができません。ひとまとめにしてしまうことで、共感されなくなることは避けたいところでした」
と、バランスをとることに注意を払ったと話してくれたが、「子育てとーさん」さんも、そうしたバランスのとり方について試行錯誤してきたそうだ。
「自分としては家庭内での家事育児のクオリティーの最低レベルをそろえ、共通認識とすることが大切ではないかと思っています。双方が最低限同じようにこなせて、行うべきタイミングも各自で判断する、それが出来たらお互いの負担も減るのかな? と感じます。
最終的には家族内でどうコミュニケーションが取れているかが大切です。何より目の前にいるパートナーに目を向け、適切にコミュニケーションを取れば、双方のズレみたいなものもいずれは解消されていくのでは? なんて偉そうに言ってますが、自分は盛大にそのへんのコミュニケーションがうまく取れず、妻には辛い思いをたくさんさせてしまいました」
コロナが変えた家族のカタチ
そうした経験を経て、「子育てとーさん」さんは、#ゆるゆるお父さん遠足を広めていければ、と考えている。
「#ゆるゆるお父さん遠足は、お父さんたちの家事育児情報を共有するため、とかそう確固たる理念や目的があって行われる活動ではありません。ネットでゆるく募集して、男親だけで子どもを連れて遠足に行く。実際に参加したお父さん同士でその場でゆっくり話すことも、あまりありません。そこに参加したからといって友達になれるというわけでもないんです。でも、確かに子どもたちを大切に思い、育児に取り組むお父さんがいる、というのを肌で感じることができます」
「僕は手伝わない」が描く姿があたりまえの日常になるには、そういうお父さんたちの連携による“子育て実感”がとても大切になってくるんじゃないだろうか? ママ友はよく聞くが、パパ友はなかなか聞かない。仕事を抜きにして横につながるのが、男性は苦手だともいう。
でも、コロナと共にある時代にあって、お父さんたちが家庭にいる時間も増えた。子どもと出かけた公園で、お父さん同士の付き合いも生まれてくるかもしれない。そこで、子育て実感や情報を共有し合い、新たな家庭像が育っていけたらいい。「子育てとーさん」さんは、そういう日常が当たり前になってほしいという。
「#ゆるゆるお父さん遠足でも、お父さんの子育てを普通のことにして、ネットだけではなくリアルにほかのお父さんと話したり、パートナーに自由時間を作っていく、というのを目的にして、これからもゆるく続けていきたいと思います」
「僕は手伝わない」の家庭像はコロナの時代に、ゆるゆると育ち始めた。
「NEWクレラップ」のムービーを改めて見て、どの家もこんなふうだったらお互いがお互いを自然に思いやることが家の中から外にも広がって、もっと暮らしやすい社会を築いていけるんじゃないか、と思った。ちなみにバッグで流れる美しい歌は、清水悠さんという女性シンガーの『ライフ』という曲。これも、とってもいい感じだ。
〈取材・文/和田靜香〉