教科書は新品のまま
《学習は興味をもって取り組み、力を付けました。国語科「すずめのくらし」では、説明文を正しく読み取り、丁寧にノートにまとめました。運動神経がよく、運動会ではリレーの選手に選ばれ、毎日の練習に張り切って参加していました》
これは美咲ちゃんが通っていた小学校の1年生の成績表に書かれた、担任教諭からの「総合所見」だ。行方不明になった当日は、学校で運動会が予定されていた。ところが天候の都合で延期され、とも子さんたちは、以前から計画されていた仲間のキャンプへ合流することに、予定を切り替えた。
「美咲はリレーの選手に選ばれ、走るのをすごい楽しみにしていました。家の周りを何周も走って自主トレまでしていました。何に対してもやる気があって、最後まで納得いくまでやり切ります。芯が強くて、1人で努力するタイプですね」
自宅でそう語るとも子さんの後ろには、「すき」と毛筆書きされた、美咲ちゃんの力強い字が飾られている。
ディズニーランドが大好きで、家族で行くのを楽しみにしていたという美咲ちゃん。クラスのみんなは、毎朝の出欠確認時、美咲ちゃんの名前が先生から呼ばれると「待ってるよ!」と挨拶してくれる。
そんな温かいクラスから昨年末、とも子さんはクリスマスリースをプレゼントされた。
「夏休みにみんなで朝顔を育てたんです。2学期に入って種を取ったのですが、美咲は参加できなくて……。そのときに枯れた朝顔のつるで作ってくれたリースでした。みんなで飾りつけもしたのでよかったらどうぞ、と言われて先生や子どもたちの思いに涙があふれ出てきました」
成績表に評価がつけられているのは2学期まで。3学期はすべて欠席したため、評価の欄には斜線が並んでいる。それを学年修了時に渡されたとも子さんは、またもや涙が止まらなかったという。
「美咲が描いた絵も渡され、もっと学校で描かせてあげたかった。毎日学校に行くのを本当に楽しみにしていて、勉強にも意欲的だったのに、それをさせてあげられないのがかわいそうでなりません」
2年生の教科書も支給されたが、新品のまま、今も部屋の学習机にしまわれている。