酒乱の被害は香苗さんだけでなく息子さんにも。リビングでテレビを見ていた息子さんに向かって突然、「勉強しろって言ってるだろ!」と怒鳴り倒し、息子さんの背中を後ろから蹴り上げたのです。息子さんは勢い余って、顔をフローリングに打ち、鼻血が出たそうです。香苗さんは「何をやっているの!」と言い、2人の間に入ったのですが、夫はますます激高。

「お前のしつけがなっていないからだ! 俺がかわりにやってやったんだろ? 感謝しろ」

 夫はそう吐き捨て、香苗さんに馬乗りになって殴り始めたのです。息子さんは命の危険を感じたのか、玄関から裸足で駆け出すと、お隣さんの家のインターフォンを鳴らし、助けを求めたようです。隣人が駆けつけると夫は突然、酔いが覚めたかのように馬乗りの態勢を解除し、

「お騒がせしました」

 と隣人に謝ると食卓の椅子に戻ったのです。隣人は気を利かせたのか、「警察を呼びますか」とは言いませんでした。香苗さんは後日、病院に行くと「首の捻挫」と診断されたのですが、頚椎(けいつい)の神経に麻痺が続いたそうです。

「フラフラするので家のこと、仕事のことをするのは大変でした」

 香苗さんは泣き出しそうな顔で言います。そして事件当日の残像が脳裏に浮かび、夫への恐怖心に苛まれ、トラウマになり眠れない日々を送っていました。不眠症の症状も相まって、筆者が対面した香苗さんは見るに堪えない姿だったのです。

 このように香苗さんは息子さんの機転により命の危機を脱したのですが、筆者はなぜ香苗さん本人が電話をし、警察や両親、友人などを呼ばなかったかが気になりました。

 香苗さんが明かした、その理由とは? そして、彼女と息子さんが地獄の日々から抜け出す方法とは──。

※「二重人格」のDV夫から逃げた妻と息子、幸せへの再出発──香苗の場合《後編》に続く


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/