図書室での運命的な出会い
彼が、六法全書との運命的な出会いをしたのも、この中学生時代だった。
「1年のときに、学校の図書室でたまたま六法全書を手にして読んだことがあったんです。法律については、小学校で憲法だけは勉強しましたが、そこには“権利は大切だ”ということがいっぱい書いてあるだけで、その権利を守るために何をやってくれるのかは何も書いてないわけですよ。
一方で、ニュースでは“誰々が逮捕されて有罪判決を受けました”と伝えている。つまり、そういうルールが法律にはあるはずだ。権利を守るための具体的な仕組みがあるはずだ、と小学生のころからずっと思っていて。六法全書を読んで“刑法”を見つけたときは、“僕が知りたかったのはこれだよ!”と思いました」
彼の問題意識の鋭さは、さらにその先にあった。
「自分が受けていたいじめは、犯罪だったのではないか。でも、学校の先生は一切助けてくれなかった。もし僕が小学生のときに刑法を知っていて、これが犯罪だと確信できていれば、学校の外の大人に助けを求めることができたんじゃないか。自分で自分の身を守ることができたかもしれない。その後悔が残ったんです」
悲しい現実だけれど、大人は助けてくれない。非力な子どもが法律という力を持つことで少しでも強くなれたら。「1人目の大人が助けてくれなかったら、2人目、3人目、4人目、5人目とあきらめずに探してほしい」と山崎は言う。
「それは、本当は1人目の大人が止めないといけないんだ、という大人へのメッセージでもあるんですよ」
その発想の根源が、『こども六法』制作への熱意とつながっていった。
実際に『こども六法』に着手したのは、慶應義塾大学の総合政策学部に在籍した3年生のころだ。大学での山崎の研究テーマは、「法教育を通じたいじめ問題解決」。
その副教材として作ったのが、現在の『こども六法』のべースになっている冊子だ。
「そのころから、法律を訳すという発想はありましたね。あとは、普通の六法は憲法から始まって民法、刑法と続くわけですけど、『こども六法』はより具体的な法律の順に刑法から掲載してる。あとは全部の漢字にルビをふるなど、この段階で骨格になる思想はできあがっていました」
大学の研究助成金に申請し、10万円で400冊を作った。表紙と中のイラストは、学部の同級生と後輩の2人が描いてくれたのだという。
このテーマは、大学の最優秀卒業プロジェクトに選ばれたが、その時点ではまだ、『こども六法』は研究テーマの副産物にすぎなかった。