「お客さんたちが本当に愛おしくて。コロナで、自分たちの意志とは関係なく引き離されてしまったじゃないですか……まるでロミオとジュリエットみたいに」
かみしめるように話すのは、シンガー・ソングライターの大黒摩季。新型コロナウイルスの猛威がおさまらない中、10月7日から全国14都市を回る有観客のライブツアーを開始した。
「スタッフは2週に1度、私は本番前に必ずPCR検査をしています。ホントは私も2週間に1度くらいでいいんですけど、自分が嫌なんです。ファンの方たちと会うときに、絶対にうつす側にはなりたくないから」
感染防止対策を専門家からレクチャーしてもらい、1600人入る会場でも観客を500人に減らすなど、ライブは万全の対策をとって行われている。
「私のファンはお母さん世代から上の世代が多いですから、子どもや自分の親にうつしたらどうしよう、なんていう不安感や恐怖感をできるだけ取り除いてあげたい。やりすぎぐらいの感染対策をすることで、初めてライブを楽しむっていう気持ちになってもらえると思ったんです」
できることを見つけていく
大黒自身、感染防止マニュアルを熟読。専門家とディスカッションして、できることを増やしていった。
「マスクをして、フェイスシールドをつけたらスタンディングもOK、タオルを振り回すのはダメだけど、持って左右に揺らすのはOKって、専門家の指導を受けて、それをMCでお客さんに伝えたら沸き立ったんですよね。それが可愛くて(笑)。規制はいっぱいあるけど、その中で“できること”を見つけていくことで、制約の中でも楽しみを増やせるんじゃないかって。何もかもダメ、って全部縛ってしまったらいけないと思うんです。今回は特に、昔から校則の隙間を縫って、遊びを編み出してきた知恵と経験が活きましたね(笑)」
ステージに立って、初めて感じた思いもあったという。
「舞台からみなさんを見ているときは、本当に複雑で微妙な面持ちでした。それでも、お互いに会いたかった気持ちが舞台と客席の間でギュッと集まって、手をつなぐ、みたいな。やっぱり私って、ファンの方たちにキャッチされた瞬間に大黒摩季になるんだなって思いましたね。リハーサルや練習では出たことがない声が本番で出せるんです」