相続するうえで、ついて回るのが、自分以外の『法定相続人』の存在。夫が亡くなった場合、子どもがいれば、妻と子どもが法定相続人となる。問題は、子どもがいない場合や、夫に前妻の子や認知している子どもがいるケース。

「子どもがおらず、夫の親が亡くなっている場合、夫のきょうだいが相続人になります。さらに、きょうだいが亡くなっていると、その子ども、つまり甥(おい)や姪(めい)に相続権が発生します。基本的に、銀行預金も自宅も名義変更する際には、相続人全員の印鑑が必要になる。つまり妻は、会ったこともない前妻の子や、夫の甥や姪に“ハンコを押して”と頭を下げなければならない」

 いざというとき、誰が相続人かがわからないと遺産分割協議ができず、相続の作業が進められないことに。

「家系図を作っておくとよいでしょう。特に子どもがいない夫婦や、婚外子がいるなどのご家庭は、遺言書を作っておくのがベストです」

 まずは夫婦でしっかり話し、どういう財産があるか洗い出す。そして“どちらかが亡くなったらどうするか”を書いて残すことが大切だ。

■夫婦で確認しておきたい 10 項目

1. 加入する保険会社と保険の種類……最低限、加入している保険会社の名前と死亡保険など種類を確認。保険証書の保管場所や保障の内容も把握しておくとベター。保険金は500万円×法廷相続人の数まで非課税

2. 口座のある銀行名と口座の種類……現在使っていない銀行も含め、口座があるすべての銀行を財産目録などに列挙。普通預金、定期預金など口座の種類、口座番号も記す。最低限これだけの情報があれば照会可能

3. 口座のある証券会社名……最低限、取引している証券会社名を押さえておく。ネット証券を利用している場合はログインIDも。もし生前に確認できなかった場合は、証券保管振替機構に開示請求を(有料)

4. 金融機関の貸金庫利用の有無……妻に黙って夫が貸金庫を利用しているケースが。中に入っている貴金属なども相続財産になる。借用書などが見つかり、遺族が困るケースもあるので、利用の有無を確認しよう

5. 名義預金を確認……夫の収入や貯金から受け取ったお金を妻の口座に入れると名義預金とみなされる。相続の際、税務署から指摘される可能性が。もし名義預金があるなら、夫婦できっちり仕分けを

6. 個人的な借金の有無……借金のほうがプラスの財産より多ければ相続放棄をすることも。期限は相続が発生したと知った日から3か月以内。死後、配偶者に迷惑をかけないために借金は隠さず告知を

7. 夫側の家系図を再確認……もし夫が亡くなったとき、相続人が誰なのかを把握するためにも家系図を作ってもらう。相続人全員の合意がないと遺産分割協議ができず、納税が遅れて税金で損をすることも

8. 利用しているクレジットカードの会社名と番号……クレジットカードのポイントは航空会社のマイルに変換すると相続でき、ほかのポイントも相続できる場合も。死後に自動引き落としで年会費などが取られることがあり注意が必要

9. 所有する不動産の確認……死後に、夫が山や僻地の土地などを所有していたことが発覚するケースも。所有する不動産は生前のうちに夫婦で情報共有し、不要なものはできるだけ生前中に売却してもらう

10. PCやスマホのパスワード……財産を管理していたり、写真を保存していたり。PCやスマホは重要なデータの宝庫。死後、それらを見られなくなると困るのでパスワードはお互いに伝えておきたいところ

(取材/村瀬素子)


【PROFILE】
岡野雄志さん ◎相続税専門の税理士 新横浜に事務所を開設以来、相続税専門の税理士として、1600件以上の案件を手がける。著書『自分で相続税の申告ができる本』など