「働き方改革」が進められ、労働環境改善のためのさまざまな取り組みが行われてきている昨今。しかし、それは表向きだけで、今でも「ブラック企業」は存在します。とある女性が経験した“地獄”とはーー。これまで詐欺や悪徳商法の取材を通して、数々の「ブラック企業」を目の当たりにしてきた、ジャーナリスト・多田文明さんからの報告です。
「今でも、対人関係に恐怖を感じています」
声を震わせ、目に涙を浮かべながら話す加奈さん(仮名・30代女性)。彼女はパワハラ・セクハラを上司に訴えようとしたところ、さらなる暴力行為で口止めされ、会社にその真実をもみ消されたと言います。
これまで私は、詐欺や悪徳商法の取材を通して、ブラック企業を散々見てきました。「働き方改革」が進められる一方で、まだまだこうした実態があるのも事実です。
一体、彼女の身に何が起きたのでしょう。加奈さんに話を聞きました。
激しいパワハラの末、同僚が自殺未遂
きっかけは、半年前までさかのぼります。
某ホテルに住み込みで働き、予約電話の対応などをしていた加奈さん。そんな彼女と寮で同部屋だったAさんは、直属の上司Bから日常的にパワハラ(パワーハラスメント)を受けていました。
「その都度コロコロ変わる指示に対して、Aさんが意見をすると気にくわない様子で“これ以上、言うことに従わないないなら、どうなるかわかってるんだろうな!”と怒鳴り散らすんです。ほかの従業員にも度々、“殺すぞ、このやろー!”なんてひどい言葉を浴びせかけていました」
寮に戻ると、ストレスからか、普段は飲まないお酒をたくさん飲むAさんの姿を見かけることもあったそう。心配した加奈さんは時に、夜遅くまでAさんの相談にのることもありました。
「Aさんは上司Bからパワハラ受けていることを、さらに上の上司Cにも相談したこともあったそうですが、“言われる側にも問題がある”とBを擁護してばかりで、スタッフへのパワハラは一向に収まりませんでした」
そんなある日のこと。加奈さんは、仕事を終えて戻ってきたAさんから“次のターゲットは、あなたかもしれない。Bがあなたの素性を周りにしつこく聞いていたから”と告げられます。
怖くなった加奈さんは、その場では恐怖で泣き崩れてしまったものの、翌朝には考えを改め、「パワハラは許せない! 直接、Bに訴える。それで暴力を振るわれても構わない。他の人が助かるなら、それでもいい」とAさんにその覚悟を話しました。
「最初は静かに聞いていたAさんですが、過去のパワハラへの思いが一気に噴き出したのか、思い詰めたような表情で立ち上がって、突然、私たちの部屋がある6階のベランダから飛び降りようとしたんです」
驚いた加奈さんは慌てて止めに入ったものの間に合わず、Aさんは手すりにぶら下がる状態に。加奈さんはAさんの腕を掴み、必死に助けようとしたそう。
「Aさんの腕の力や表情からは“生きたい”という思いが伝わってきました。でも、私1人の力じゃ無理、しかもその日は雨で手が滑り、結局Aさんは落下してしまったんです……」