日本初、洗濯代行サービス!
コインランドリーで、洗濯物を洗っている間、山崎さんは店員と客のやりとりに目が釘付けになったと振り返る。
「お客さんが店の女性に洗濯物を渡し、重さを量って、お金を払って帰っていくの。何やってるのか気になって、片言の英語で聞いたら、『WASH&FOLD』って」
滞在していたコンドミニアムに戻るとすぐに、インターネットで調べてみた。
すると、『WASH&FOLD』とは『洗って、たたむ』の意味で、アメリカではドライクリーニングなどと同じ、サービス名称だとわかった。
翌日もコインランドリーに行き、今度は自分の洗濯物を店の女性に出してみた。
「そうしたら、きれいに洗って、たたんで、袋に詰めて返ってきたの。もう、感動! これ、すごいじゃんって。私、家事が嫌いなんで、これがあったらどれだけ助かるか」
洗濯代行サービスはアメリカやアジアを中心に世界各国にあるが、日本にはまだ入っていない。
商売のカンがひらめいた。
「ひょっとして私、すごい発見しちゃったんじゃない!って(笑)。もうケータリングなんか吹っ飛んで、直感的にこっちだ! と。滞在中に徹底的に調べて帰国しました」
帰国後、山崎さんに報告を受けた、当時のカフェの店長で、アピッシュの広報・久湊良子さん(41)が話す。
「山崎から、『WASH&FOLDやるよ』と言われたときは驚きました。私たち洗濯屋になるんですかって(笑)。それでもすぐに切り替えられたのは、山崎はいつも、『愛を持って接しなさい』と言っていて、その気持ちで働く限り、どんな仕事でも同じだと思えたからです。スタッフも仕事内容より、山崎と一緒に働きたいメンバーばかりだったのでついていこうと」
それにしても、ふつうなら見落としそうな『チャンスの芽』を、なぜ山崎さんは鋭くキャッチできたのだろう。
そう投げかけると、「うーん」と、しばし考えて口を開く。
「こう見えても、すごく悩んでたんです。何があってもスタッフに給料を払う責任があるし、借金の返済もある。これからどう進むか、四六時中、考えてました。そういうときって、神経が研ぎ澄まされているから、目の前のチャンスを、パッとつかめたんだと思う」
20年来の友人で投資会社を経営する吉村美由紀さん(51)の言葉がそれを裏づける。
「美香ちゃんとは、『友達は誰?』って聞かれたら、お互い最初に名前を出すような間柄です。でも、これだけ親しくても私は彼女から、1度も仕事の愚痴や悩みを聞いたことがありません。
決して弱さを人に見せない。自分だけで考え、答えを出していくんです。美香ちゃんは、そうやって苦しむことすら楽しんでいるように見えます。急斜面を登るロッククライマーのイメージかな。この断崖を登りきったら次はどんな景色が広がるか、ワクワクしながら乗り越えていく人なんです」
断崖を登った先に広がっていたのは、洗濯代行サービスという新たな景色。
山崎さんは開店に向けて一気に突き進んでいく。