一方の夫はどうでしょうか? 昨年の3月上旬にはテレワークへ移行。電車で会社へ出勤せず、最低限の仕事を自宅のパソコンで行うだけ。コロナで負担が増加した香織さんと、軽減された夫。しかし、夫は相変わらず家事を手伝おうとはしませんでした。終日、自宅待機の夫は体力や時間、やる気を持て余しているのに。
「平日はともかく週末は家にいるんだから家事をやってほしいですよ。くたくたで帰ってきたのに、昨日の洗濯物が山積みで残っているんです!」
そんなふうに香織さんは不満をぶつけますが、2人分の食事を作り、洗濯や掃除を担う香織さんの姿は夫の目には入りません。なぜなら、夫は1人でVRゲームに興じているから。
こうしてコロナ禍で夫婦関係は次第に冷えていったのですが、まだ香織さんが離婚したいと思ったわけではありません。ほとんど会話をせず、お互いが自室にこもり、スキンシップは全くない生活。それでも平行線のまま、のらりくらりと結婚生活が続くだろう。夫の異常とも言える性格をそれほど深刻に考えていなかったのです。
夫が深夜2時にベロベロに酔っぱらって帰宅
夫婦の関係を完全に切り裂く出来事が起こったのは、昨年12月上旬。
現在、都内に発令されている2度目の緊急事態宣言下では、アルコールを提供する飲食店に対して20時以降の営業自粛を求めており、1日あたり6万円の協力金が支給されます。一方、12月当時は「22時以降の営業自粛、1日あたり4万円」。細部に違いこそあれ、時短営業を要請していたのは今と同じです。
大半の飲食店は自粛に協力していますが、一部には協力せず、22時以降も営業を続け、アルコールを提供している飲食店も存在したのは事実です。香織さんの夫が通っていたのは後者で、しかも接待のサービスを行っていました。当時は終電の繰り上げが行われる前のタイミング。夫は夜中の2時にベロベロに酔っぱらって帰宅したのです。
筆者は内心、「酔っ払いに向かって正論を吐いたところで聞き入れないだろう」と思いつつも香織さんの話に耳を傾けました。その日、香織さんは夫に対して思わず、こう言い放ったそうです。「あんたの行動はおかしくない? みんなが自粛しているのに! 私にコロナをうつして万が一のことがあったら困るのはあなたでしょ?」と。
昨年2月に蔓延が始まった新型コロナウイルス。当初はわからないことばかりのブラックボックスでしたが、年末には徐々に解明されつつありました。ウイルスが飛散するのはマスク等をつけず、飲み食いをしたり、大きな声で話したり、歌ったりする場面だということ。接待を伴う飲食店はそれらに該当しており、感染のリスクが極めて高いので香織さんの言うことも一理あります。