自粛に協力する店を“怠慢な店”と決めつけ

 しかし、夫は感染リスクの高低など一切無視し、こう反論してきたのです。「お前みたいな馬鹿と一緒にするなよ。俺はああいう店を応援したいんだ!」と。

 夫いわく自粛に協力するのは協力金目当ての怠慢な店。協力金を当てにせず、自らの売上で経営しようとする店のほうが偉い。夫は後者の店の売上に貢献したい。そんな純粋な気持ちで通いつめたと言うのです。夫が協力店を目の敵にするには自分が納めた税金がそれらの店に配られていると思っているからで、協力金の原資が自分たちの税金だと気づかない香織さんを「馬鹿」呼ばわりしたというわけ。「あいつらは金食い虫だよ、自粛長者なんて許せない! 自分のケツくらい自分でふけよな!!」と凄むばかり。

 論点のすり替えも甚だしいですが、結局、香織さんに言い返す余裕はなく、言葉を発するのは夫ばかり。夫は「お前はアホだからわからないだろうけどさ!」と捨て台詞を吐くと、そのまま寝入ってしまったのです。

 もし、香織さんの指摘に対して夫が「ヤバい!」と驚き、とっさに思いついた言い訳が「税金泥棒」というメチャクチャな持論だとしたら……夫は多少なりとも、悪いと感じているのでしょう。まだ最低限の良心を失っていないと前向きにとらえることも可能でしょうが、夫は本気で「税金泥棒」だと思っているようなので香織さんの心の持ちようでどうにかなるわけではありません。

夫は「いないほうがいい存在」だと気づく

 コロナをきっかけに夫婦の絆が強まるのはコロナ対策を話し合い、意見を言い、結論を出すことができた夫婦だけです。香織さんのように話が通じず、何を考えているかわからず、喧嘩してばかりだとしたら、どうでしょうか? ただでさえ弱かった絆が完全に消えてしまっても不思議ではないでしょう。

 夫の主張の中には「妻に感染させないように」という配慮が入り込む隙間はありません。なぜなら、香織さんは家庭内感染の予防のほうが大事ですが、夫は協力金支給の是非のほうが大事なのだから。香織さんがいくら言葉を尽くしても、夫の中の優先順位を入れ替えることは不可能でしょう。コロナによって夫はあまりにも自分勝手で独善的で、そして差別的な人間だということが明らかになったのです。夫の最終学歴は大学で、香織さんは専門学校ですが、ともすると夫は最初から香織さんを見下していた節もあります。

「もう終わりだと思いました。コロナが落ち着いたら離婚しようと思っています」

 老若男女、年齢、職業を問わず、コロナウイルスには死亡リスクがあります。部屋の中で引きこもっているならともかく、香織さんはバスで通勤し、動物病院で働き、スーパーで買い物をしているので、感染する可能性は常にあります。思わぬ形で命を落とす可能性があることを踏まえ、筆者はこう投げかけました。「限られた人生をどのようにしたいですか?」と。そうすると香織さんは「自分らしく生きたいです!」と言い、ようやく夫が「いないほうがいい存在」だと気づいたのです。