妻と子どもに伝えていること
2005年、高江洲は仕事を斡旋してくれていた社長に裏切られたと同時に、プライベートでも恋人と別れ、心の支えを失っていた。特殊な仕事を理解してもらう難しさを痛感したという。生涯独身を貫く覚悟だった。
しかし'09年、沖縄の友人に紹介された女性と出会って3か月で結婚。'13年には長女が生まれ、昨年春には長男が誕生した。
「妻は私の仕事を本当に理解してくれました。実際、彼女も清掃や遺品整理の現場を手伝ってくれることがあるんです。『おばあちゃん、頑張って生きたね』なんて語りかけながら作業していて、私よりも向いているかもしれません」
さまざまな死から学んだことがある。それを今、妻や子どもたちに伝えている。
「家族には、車や別荘やお金は残さないと話しています。金はあの世には持っていけないし、子どもがチャレンジする機会を奪いたくはないから。
それに……お金持ちで心のバランスを崩して、自殺していったたくさんの人を見てきましたからね」
清掃後の「問題」にも向き合う
高江洲は、特殊清掃が終わった後にこそ、「問題」があると指摘する。
「物件で人が亡くなると、その部屋で何が起こったか、次の入居希望者に伝える告知義務がある。大家さんが数十万円~数百万円かけてリフォームしても、すぐ買い手が見つかるとは限らない。そんな心理的負担を軽減できないかと考えるようになりました」
昨年、高江洲は事故物件専門の不動産業を始めた。相場の2割引で事故物件を買い取り、投資家に向けて販売することもあれば、自分で所有することもあるという。
また、清掃後、引き取り手のない遺骨の問題にも取り組む。
高江洲の事務所では、特殊清掃の依頼主から預かったいくつかのお骨を安置している。
「これらの遺骨は、海洋散骨を行うことを約束しています。先日も沖縄の海に散骨してきました」
高江洲は「特殊清掃」の後に残る問題とも、こうして向き合ってきた。
清掃を終えた後、思いつめた様子の遺族から食事に誘われて、話を聞くことも少なくない。
「誰かに聞いてほしい」
遺族のそんな気持ちを受け止め、故人の生前に思いを馳せる時間に寄り添うこと。
これもまた、“清掃の後”に残される大きな問題のひとつなのだ。
「高江洲さんはね、すごく話しやすい人なの」
高江洲が通う居酒屋の女将、浜田八重子さん(67)は言う。
いつしか親しくなり、高江洲の仕事を知った浜田さんはこんな依頼をしたことがある。5年ほど前のことだ。
「私、引っ越しを考えているんだけど、見積もりに来てくれないかしら」
清掃でも遺品整理でもない。それでも高江洲は後日、彼女の住まいを訪ねた。
古い木造アパート。居間には仏壇が置かれていた。そこは30年前、湯沸かし器の不完全燃焼による一酸化炭素中毒で夫を亡くした部屋だった。
「実は見積もりは口実だったの(笑)。高江洲さんに話を聞いてもらいたかったんです」
壁にかけられた夫の写真を見せながら、死別の日のこと、たったひとりで子ども3人をこの部屋で育ててきたことなど、思い出を語った。
後日、高江洲は故郷の沖縄の砂を取り寄せて浜田さんに贈ったという。
「亡くなった旦那さんは海が好きだったそうで、仏壇の線香立て用の砂は、女将がいつも海辺から持ってきたものを使っていると聞いたから」
特殊清掃のほかにも、自分にできることはないか──。