行き過ぎルールは違法の可能性も
喫煙をめぐる厳しすぎるともいえる企業ルールは法律的に見てどうなのか、労働問題に詳しい杉並総合法律事務所の三浦佑哉弁護士に聞いてみた。
そもそも、どうしてこんなに喫煙をめぐる状況が厳しくなってしまったのだろうか?
「確かにこのところ、禁煙というか受動喫煙防止の流れがものすごく強くなってますよね。実はこれ、国際的なものなんです」
1999年には、世界銀行がたばこの流行を地球規模での脅威と位置づけ、その対策の重要性をうたった報告書を公表。WHOが『たばこ規制枠組条約』を策定し、2005年に発効した。
「さらに日本の場合は、東京都がオリンピック・パラリンピックの開催都市に決まったことが大きいですね。IOCが喫煙規制を求めている関係で、2000年代になってから開催都市はどこもオリンピック開催までに受動喫煙防止の対策をとるという流れができています。それを受けて、日本も法律を改正し、企業もそれにならったのでしょう」
中村さんは「日本ではたいして喫煙に対して危機感を持ってなかったのに、オリンピックを前にして急に規制に厳しくなったのは外国人の目を気にしてでしょう。何を欧米にこびへつらってるのって思っちゃいます」と率直に語るが……。
「たばこが長年にわたって、嗜好品のひとつとして認められてきたことは事実です。ただ、それが制約されるようになったのは、副流煙が他者を害する可能性があるというデータが出てきたからなんですね。これが、企業が従業員の喫煙の自由を制約する第一の根拠となっているわけです」と三浦弁護士。
企業が就業中の喫煙を制約する根拠は他にもある。
「企業は施設管理権というものを持っていて、自社の施設内で吸うなとか、そういうことを決める裁量があるんです。これが禁煙の根拠の2点目。根拠の3点目は、いわゆる企業秩序を維持する義務というのを労働者は負っていること。それから最後に、労働者は職務の専念義務というものを負っていること。所定労働時間中はちゃんと仕事に集中する義務があるんです」
この4点のうち、どれかに当てはまるのであれば、喫煙を制約することは法的に認められる可能性が高いというわけだ。
「だから、勤務時間中については、オフィスだろうが自宅であろうが、企業が従業員に禁煙を求めることは適法になるだろうとは思います。反対に、完全なプライベートな時間、休日も吸うなと罰則付きで強制するのは違法になると私は考えています。健康のために禁煙を“呼びかける”くらいなら許容されるでしょうが……。グレーゾーンなのが、休憩中や始業時間前といった労働時間に接続しているプライベートな時間に、会社の敷地外にいる場合でも禁煙を求めることですね」
現状は努力義務であっても、守らない人が多ければ罰則付きにという声が上がる可能性もあるという。プライベートタイムの嗜好品を規制する場合は、しっかりとした根拠を示すなど、慎重な姿勢がほしいところだ。