養育費の滞納分・96万円を一括で回収

 窮地を救ったのは今回の新制度でした。

 口座番号は不明でも元夫のメインバンクは地元の信用金庫だということは察しがつきました。元夫の父親は自動車メーカーの孫請けとして工場を営み、部品を製造していました。父親の取引先は信用金庫。その縁で元夫本人が就職した際、強制的に給料の振込口座を信用金庫にさせられてしまった……結婚当時、元夫はそう愚痴っていたのを思い出したのです。

 真央さんが地方裁判所へ「第三者からの情報取得手続」を申し立てると裁判所は信用金庫に対して元夫の預金情報の開示を命令(民事執行法207条)しました。信用金庫は元夫名義の口座の支店名、口座番号を回答したので真央さんは望む情報を入手。今度は銀行預金の差し押さえの手続きを行い(民事執行法145条)、3月上旬に96万円が信用金庫から真央さんの口座へ振り込まれました。「残高が96万円も増えていて、びっくりしました」と真央さんは喜びます。

 もちろん、口座に十分な残高がなければ差し押さえは失敗します。元夫は2年間、養育費を振り込むのをやめていましたが、余った分を他の口座に移したり、証券等で運用したり、現金で引き出して使ったりせず、そのまま給与の振込口座に残しておいたのではないでしょうか。まさか差し押さえされる時が来るとは知らずに……。このような元夫の油断も隙もある性格に助けられた格好です。

「今日、学費を納めてきました。露木先生には感謝しています」と真央さんは言います。何とか納期に間に合わせることができたのですが、これで終わりではありません。

 真央さんは離婚から再婚までの間、女手ひとつで娘さんを育てるため、児童扶養手当(ひとり親家庭に支給される手当)を受給してきました。手当の受給を継続するには現況届に年収等を記入し、提出しなければなりませんが、今まで数字を偽ったことはないそう。それなのに、現夫のやっていることは不正受給。正義感が強い真央さんが最も嫌うことです。「旦那のことは見損ないました。今すぐ離婚しようって思っています!」真央さんは語気を強めます。

 元夫が養育費の振込を止めたのは真央さんが再婚したからですが、もし真央さんが現夫と離婚し、母子家庭に戻るのなら、また養育費を受け取りたいと思うのは当然のことです。離婚時に決めた毎月8万円の支払いをどうしたら復活させることができるでしょうか?