押しつけではなく、本人が決めることが大切
坂本さんとの出会いで、夜の生活から昼の生活に戻った女性も数人いる。
昨年、坂本さんは20代前半の女性Aさんと出会う。いつものようにマスクやカイロを手渡し、その後も何度か会ううちに、自動販売機で買ったジュースを一緒に飲みながら、身の上話を聞くことができた。一般社会から遠ざかっていた時期があり、周囲の尽力で就職したものの、自分には合わずにすぐに辞めた。
だが、助けてくれた人たちを「裏切ってしまった」との申し訳なさから再び頼ることもできず、空白の履歴書では再就職も難しいと思った。家族とも疎遠。Aさんが生きるためにたどり着いたのが歌舞伎町の路上だった。売春で生計を立てる中、心の底では「生活を変えなきゃ」と思いつつも、相談相手すらいない。そして坂本さんに出会った。
坂本さんは、すぐに「昼の仕事をしよう」とは言わなかった。
「押しつけではなく、彼女自身が決めることが大切。だから、働くなら公的支援もあるし、空白の履歴書でも採用する会社もあるし、支援する民間組織もあるよとの選択肢の提示にとどめたんです。“ネットで調べてごらん”と、ひとりでもできることはすすめました。その後も、踏ん切りがつかないのか、何か月間かは(歌舞伎町の路上に)立っていましたね」
ところが、今年に入ってから何度、歌舞伎町に来てもAさんの姿が見えなくなった。ある日、同じように立っている別の女性が教えてくれた。
「坂本さんが教えた公的支援する組織に行って、職業訓練を受けて就職したよ」
坂本さんはこのとき、二重の喜びを覚えた。
「彼女がもう自分を隠さなくてもいい昼の仕事に行けたこと。そして、それを自分の意思で決めたことです。僕の夜回りがその後押しになったのならうれしいです」