舞台の上でもうひとりの私になりきる
「アンドロイドになったり、若い女性になったりと、自分でないものを演じるのはすごく面白いですね」
兵庫県在住の奥村緑子さん(70)が楽しむ「ソロ活」は演劇だ。
奥村さんが所属するのは、西宮市を拠点に活動する「劇団ふぉるむ」内の演劇教室。50~70代を対象にしたクラスで、奥村さんのほか11人の仲間が在籍。同劇団の演出、小林哲郎さんの指導のもと、毎週1回の稽古に励み、毎年3月には発表会を行っている。
奥村さんが同演劇教室に参加したのは2017年4月。
「その前に落語を20年近くやっていました。落語はお稽古も本番もひとりで完結するもの。仲間と一緒に何かを作り上げていくことがやりたいなと思い始めました」
だが、その2か月後の6月、奥村さん家族を悲劇が襲った。
「夫にがんが見つかり、病状が急に悪化したんです……」
同9月、夫は71歳で亡くなった。専業主婦として1男2女を育て上げ、出版社のパートを65歳で退職。同じく会社を退職した夫と第2の人生をスタートしようとしていた矢先のことだった。
「“80歳になるまでは身体が動くし元気だから、夫婦2人で遊ぼう”って計画していたんですよね。これから、というときでした」
夫の死後は葬儀や手続きに忙殺されていたが、一段落すると今度は喪失感に苛まれてしまったという。
「当時同居していたいちばん下の娘もひとり暮らしをすることになり、本当に私はひとりになることに……」
落ち込む奥村さんを支えたのは子どもたちの存在だった。
「私が家にいてじっとしてたら子どもが心配しますからね。もともと私は人に喜んでもらうことが好きでしたし、社会との接点も欲しかった。そこで、“四十九日が終わったら元に戻ろう、一歩踏み出そう”って決めたんです」
同年12月から芝居と落語の稽古も再開させた。