不登校新聞の編集部は、東京・文京区のビル3階の一室にある。
「ここには2年前に移転しました。以前は、北区王子にある『東京シューレ』というフリースクールの一角に間借りしていて、やっと独立できたんですね。常勤5名、非常勤4名で、そのうち7名が不登校やひきこもり経験者です」
最近は、テレビなどのメディアで不登校新聞が紹介されることも増えてきた。石井さんは、それにはきっかけがあったと言う。
「'15年6月に発表された内閣府の統計を見ると、18歳以下の日別の累計自殺者数は9月1日が突出して多かったんです。実は、以前から不登校に関わる人たちの間では、夏休み明けの9月1日は子どもの自殺が多いと言われていました。
でも、数字として表れたのは初めてのこと。そこでこの統計に注目して、広く社会に伝えたいと、私たちは記者会見を行ったんです」
平成27年版の『自殺対策白書』を見ると、確かにそのデータが示されていた。
「さらに、4月の新年度に入った時期に2番目のピークがある。そして5月の連休明けに次のピークがくるんです。そのタイミングで不登校も増える。いきなり学校に行くと体調不良が起きるということは、不登校では本当によく言われている話です」
この記者会見によって、不登校新聞は一躍注目を集めたのだ。
建前なし、当事者の本音全開の記事づくり
不登校新聞では、不登校やひきこもりの当事者が登場し、自らの本音をつづっている。
そこには決まりがあると石井さんは言う。
「“誰かの役に立つ”ことではなく、“私の役に立った話”を書いてくださいと言っているんです」
なかには、驚くようなことを告白する人もいる。
「私をいじめた人を許さない。復讐する気持ちで生きてきた、と言う女の子もいました」
ひきこもり続ける中で彼女が思いついたのは、自分をいじめた相手を「呪ってやる」ということだった。
「そこで彼女は、呪い方である“黒魔術”を調べるため図書館に出かけた。これが“脱・ひきこもり”の第一歩になったんです。呪いを実践しようとしたけれど、黒魔術を使ってやることはかなり難しいとわかった。
どうしようかと思ったときに、いじめた人よりもずっと充実した人生を送ってやろうと思いついたそうです。それで彼女が考える最高の“リア充”である、モデルになる道を選んだんです」
実際、モデルとなった彼女だが、今ではOLとして働いている。
「今は“日々を充実して生きることが、いじめていた子たちへの復讐になる”と考えているそうです。
こんな感じで不登校新聞に記事を寄せる子どもたちは、建前なしで本音がすごい。大丈夫かなと思うくらい。
人が生きるってポジティブな感情だけじゃなくて、ネガティブな感情が自分を突き動かしていく部分もある。でもネガティブな感情だからといって、非生産的とは限らない。ねじれているけれど、一生懸命に生きている」
不登校新聞の全8ページの紙面のうち、8分の1が子どもたちの声だ。
「読者は不登校の子どもを抱えた親御さんが多いですね。“自分の子がこんなことを考えていたなんて、びっくりした”という人もいます。親が聞きたくない内容の記事もバンバンやりますからね。
『あのとき、どうして死にたいと思ったか』とか『親がこういうふうに追い詰めてきた』とか。私たちは、当事者の気持ちから考える新聞なので、そういう意味ではどんどん出しています」
ほかのページでは、不登校の子どもを抱える親や、専門家などが登場。読者からは、初めて自分と同じような体験をした人に出会って、「ほっとした」「安心した」という声が寄せられるという。