真子を信用して繁盛店の営業を委託したが…

 結局、真子さんに営業委託という形で一任することに。真子さんが支払うロイヤリティは毎月45万円に設定。そしてテナントの賃借人は有紀さんのまま、真子さんが大家へ毎月25万円の家賃を支払う約束でした。しかし、最初の1か月で真子さんと喧嘩をした2人の従業員が辞めてしまったそう。「相性もあるから」と有紀さんは気に留めなかったのですが、そんな矢先に襲ってきたのが新型コロナウイルスの蔓延でした。

 緊急事態宣言下で感染を恐れ、4月、5月の利用者は激減。すると6月にロイヤリティと家賃の振込が停止したのです。そこで有紀さんが「家賃の25万だけでいいですよ?」と投げかけると、真子さんは「了解です。大丈夫」と二つ返事でしたが、それでも振込は復活せず。「明日、休みなので振り込みます」(7月15日)、「振込先を失念しました」(7月30日)、「体調を悪くして入院中です。まだ身動きがとれません」(8月20日)と言い訳するだけ。

 そして二人の経営判断の違いが傷口を広げる結果に。「こんなご時世だし、いったん閉店してみては?」と提案する有紀さんに対し、真子さんは「化粧品の販売を始めます」と挽回に躍起。さらに「商品の仕入れがうまくいかず、揉めています」(9月1日)「資金を借入れする準備をしています」(10月21日)、「集金できず何の支払もできていません」(11月14日)と3か月経過しても御託を並べるばかりで1円も払わない真子さん。

 2020年の年末、有紀さんはついに閉店を決断。真子さんとの委託契約を撤回することで、大家との賃貸契約を解除でき、ようやく家賃の支払い終了しました。しかし、積もり積もった家賃は175万円に。国が3分の2まで補助する(家賃が37.5万円以下の場合)家賃支援給付金は2021年1月に終了。5~12月の売上のうち、1か月でも前年比で5割以上減少するなど、有紀さんは支給の要件を満たしていました。しかし、急いで準備に取り掛かるも、申請が間に合わずに、給付金を受給できなかったのです。

 しかも大家とも交渉していなかったので、減額の余地はなく、有紀さんがすべてを立て替えた格好。「他のお店も売上は半分以下。持続化給付金で食いつなぎ、貯金は底を尽きました」と有紀さんはため息をつきますが、真子さんの不義理はまだ続きます。

「協議を行う旨の合意」があれば時効を延長できる

「今はコロナで返済が無理なのはわかっています。でも直接、謝罪するのが筋じゃないんですか!」と有紀さんは声を大にしますが、昨年10月以降、2人は一度も顔を合わせておらず、連絡はLINEだけ。納得がいかない有紀さんは「最後のけじめをつけてください」とLINEを送信。3度も会う約束をしたのに、合わせる顔がないのでしょう。3度とも真子さんがドタキャン。家賃の時効は弁済期日から5年ですが(民法169条)、逃げ回る真子さんに有紀さんは「このまま踏み倒す気じゃ……」と焦ります。

 そこで筆者は「大丈夫です」と激励。有紀さんを救ったのは昨年4月の法改正です。「協議を行う旨の合意」があれば、時効を1年間、延長できるように(民法151条)。さらに合意を繰り返せば最長5年間、延長可能。合意した証拠(書面もしくはデータ)が必要なので、筆者は「スマホにLINEのやり取りを残しておいてください」と助言しました。時効を延長できるのは有紀さんの我慢が実った結果です。

「コロナで苦しいのはお互い様です。でも見逃せるほど小さな額ではないので……」と有紀さんは苦しい胸のうちを吐露しますが、先行きの見えないコロナ禍で、真子さんがいつ仕事を見つけ、収入を得て、日常に戻るか不透明です。急かさずに生活再建を長い目で待ってあげられるのが法改正の恩恵です。

 しかし、これで一見落着したわけではなく……次なる火種のきっかけは夫の裏切り。「味方だと思っていたあの人が敵だったなんて」と有紀さんはショックの色を隠せませんでした。一体、何があったのでしょうか?