夫は真子を愛人として囲い、店長の座も与えた

 夫が出張先の東京で見初めたのが真子さん。真子さんの勤務先のエステは、エステでも性的サービスを提供するお店。夫はその店に通いつめ、アフターを繰り返し、プライベートでも性的関係を結ぶように。夫は真子さんを東京から名古屋へ呼び寄せたいと思ったものの、彼女は6歳の息子さんを1人で育てるシングルマザー。

 ついには「全部の面倒をみるから心配するな」という甘い言葉で真子さんを口説き落とした模様。具体的には夫がアパートを用意し、家賃を支払い、真子さんの生活費を負担することを約束。こうして真子さんは息子さんを実家に預け、1人で名古屋へ出てきたのです。夫は真子さんを愛人として囲うことに成功したのですが、それだけで飽き足らず、店長の座も与えたのです。「最初からおかしいと思った!」と有紀さんは声を荒げますが、経験ゼロの女性が何の準備もなく、いきなりエステ店を経営をするのは荷が重すぎます。そのため、まだコロナ前なのに従業員が早々に2人も辞めたのでしょう。

 怒りがおさまらない有紀さんは、とうとう真子さんの部屋に乗り込んだのです。

「自分が何をしたのか、わかっているんでしょうね? 慰謝料を払わなきゃいけないような大罪なのよ!」と突きつけたのですが、真子さんは「払えるなら払いたいわ!」と開き直り。店長の座から引きずり降ろされた真子さんの収入はゼロ。風俗嬢として女手ひとつで子どもを育てる真子さんにまとまった貯金はありません。

「ないところから取れないのはわかっています。でも、指をくわえているのも悔しい!」と有紀さんは唇を噛みますが、不倫慰謝料は関係を知ってから3年で時効です(民法724条)。最初に2人の男女関係を知ったのは先月のこと。このまま放置しておくと2年11か月後には時効に。どうすればいいのでしょうか?

相手が慰謝料の支払いを承諾すれば、時効は振り出しに

「支払能力の有無はともかく、相手方が慰謝料の支払いを承諾すれば、時効が振り出しに戻ることが認められていますよ」(民法152条)と筆者は助け船を出したのです。今回の場合、次回の時効は承諾から3年後へ延長されるという意味。真子さんは「ユーチューブで自己啓発をやって稼ぐ」といきがりますが、真子さんが風俗の仕事を再開するのと、ユーチューブの収益が軌道に乗るのと、どちらが先なのかわかりません。確かなのは真子さんは慰謝料を払う意思があることです。これで有紀さんは真子さんが慰謝料を払えるだけの収入を得るまで、気長に待つ権利を手に入れたのです。

「あの人とは一蓮托生。あの人が別れたいって泣きついても、別れてやるものですか!」

 有紀さんはここまでひどい裏切りに遭ったのに、夫の悪事を水に流し、許すつもりだそう。もちろん、真子さんに与えたアパートを解約し、実家へ帰らせることが条件です。夫は優秀な経営コンサルタントで、エステサロンを拡大するのに必要な相棒。新型コロナウイルスの蔓延がひと息つき、娘さんの精神状態が落ち着いたら、真子さんのせいで失った繁盛店を取り戻すため、夫をコキ使うつもりだと豪語します。

 このように有紀さんは時効の延長によって請求権の消滅を免れた債権者(お金をもらう人)です。しかし、新制度によって救われるのは債務者(お金を払う人)も同じ。なぜなら、時効の延長によって緊急性は低下するから。厳しい取り立てをされなくてもよくなります。こうして支払の再開に必要な収入の確保、他の支払いの整理、生活の安定が実現するまでの時間が与えられます。コロナ後を視野に入れ、債権者はお互いのためを思い、新制度を活用してみてください。


露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/